厚生労働省が医療費抑制のため、競合地域にある病院との再編・統合を促す必要があるとして病院を実名で公表したことに、農村部の住民から戸惑いの声が上がっている。診療実績が乏しいと判断した病院をリスト化したもので、強制力はないが「身近な病院がなくなってしまう」「地域の事情を考えていない」などと声が上がる。同省は再編・統合について本格的な議論を要請。来年9月までに結論を求める。(高内杏奈)
実績ありき疑問 人口減少考慮を
秋田県八郎潟町の湖東厚生病院は2010年、医師不足から存廃論議になったが、住民の署名運動で守った。「湖東病院を守る会」代表で、水稲30ヘクタールを栽培する同町の齊藤久治郎さん(72)は、近隣の3町村の代表らと協力して、3万件の署名を集めた。必死の訴えに同病院は新体制で再編し、在宅療養支援に力を入れ、14年に再スタートした。齊藤さんは「守り抜いたと思ったが、再編・統合の話が再度出て困惑している」と肩を落とす。
救急は秋田市の病院と連携し、慢性疾患や在宅医療を主にして医師不足の課題をクリアした。JA秋田厚生連は「がんや救急医療のデータを抜き出して“診療実績が乏しい”というが、役割分担したから当たり前。地域実情を理解していない」と疑問を投げ掛ける。
福島県は3カ所の厚生連病院の名が上がった。JA福島厚生連は「あまりに唐突。地方の高齢化、人口減少が一切考慮されていない。都会と同じ物差しで測っているのではないか」と憤る。
国の狙いは医療費抑制
医療費は団塊世代が75歳以上となる25年に急増する見込み。17年度の国民医療費は43兆710億円で、25年には56兆円にまで膨らむ見通しだ。そのため同省は医療費抑制に向け、各都道府県に対し、25年に必要なベッド数などを定めた地域医療構想を策定させ、見直しを求めていた。だが、各地で議論は膠着(こうちゃく)しており、同省は全国の1455の公的な医療機関を調べ、診療実績が乏しいなどを理由に424機関の実名を公表。統合再編に向けた議論の活性化を呼び掛けた。
だが、突然の実名公表に現場からは不満の声が続出している。リストには農村地域の医療機関が多く含まれる。患者の高齢化が進む。公共バスの廃止などで通院に悩む人も多い。実態を考慮せずに医療費削減と病床数だけでの線引きには疑問の声が上がる。地域医療の在り方を再検証する意味合いが強いが、地域での調整は難航が見込まれる。
日本農業新聞
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