フォトジャーナリストの豊崎博光さん(72)=神奈川県湯河原町=は40年余りにわたって、米国による核実験で故郷の島を追われた太平洋・マーシャル諸島の人々や、米国の核開発によって健康被害を受けた先住民族や米兵ら、旧ソ連の原発事故による被害者など、世界の「ヒバクシャ」の取材を重ねてきた。
「日本人は、75年前に不幸にも広島・長崎で原爆被害にあった人たちと自分は違うと思いがちだが、私たちはみなヒバクシャです。核実験や原発事故により、地球規模で放射線は流れているのに、自分は被ばくしていないと思っている」
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米国は、広島・長崎への原爆攻撃から間もない1946年から58年にかけて、マーシャル諸島で67回の核実験を実施。54年の水爆「ブラボー」の実験では、静岡県のマグロ漁船「第五福竜丸」などが「死の灰」を浴びた。約1千隻の日本の船がその海域を航行したが、米日両政府は第五福竜丸だけに限定し、200万ドルの「見舞金」で政治決着した。また、水爆実験で健康被害を受けたと訴える高知県の元漁船員ら11人について、労災認定にあたる船員保険の適用を審査した厚生労働省の社会保険審査会は昨年9月、元船員らの再審査請求を棄却した。健康被害は「放射線被ばくによるものと認められない」と判断した。
豊崎さんは、78年からマーシャル諸島に通い、ロンゲラップ島の元村長ジョン・アンジャインさん一家らの写真を撮り、体験を聞き取った。米国の研究所は、妊婦を含む島民らをグループ分けし、「被ばく者」と「非被ばく者」の2種類のカードを持たせた。核実験後の避難行動や摂取した食物などの記録を取り、体内の放射線量を測定した。
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豊崎さんが入手した米国の機密文書にはこう記されていた。「ロンゲラップは地球上のいかなる土地よりも放射線量が高い。放射線についての貴重なデータを提供してくれる。こういうデータは今まで(広島・長崎原爆では)手に入らなかったものだ」。ソ連との核戦争に備えて放射線の人体影響を調べる米国の「プロジェクト」だった。
「核大国アメリカはヒバクシャ大国です」と豊崎さん。ネバダ核実験場などの風下被ばく者など約100万人もいる。
核大国の核実験場にされた南半球の国々など122カ国が賛成して2017年に採択された核兵器禁止条約の前文は「核兵器の使用による犠牲者(ヒバクシャ)と核実験による被害者の受け入れがたい苦難を心に留める」とうたう。
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マーシャル諸島は条約の署名・批准を済ませていない。島には米軍のミサイル実験施設があり、条約に反対する米国の援助がなければ国として成り立たない。
冷戦は約30年前に終わったが、トランプ米政権は「使える核兵器」開発を続ける。こうして多数のヒバクシャを生みながら造られた米国の「核の傘」に安全保障を委ねる日本政府も、条約に背を向けている。(田井中雅人)
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とよさき・ひろみつ 1948年、横浜市生まれ。78年から核問題の取材を始める。「アトミック・エイジ」(95年)で平和・協同ジャーナリスト基金賞、「マーシャル諸島 核の世紀」(05年)で日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞を受賞。
シリーズで刊行
豊崎博光さんは「写真と証言で伝える世界のヒバクシャ」シリーズの刊行を始めた。「核兵器の製造や原子力発電などが始まって以来、ヒバクシャが生み出され続けていることを知ってほしい」と話す。第1巻「マーシャル諸島住民と日本マグロ漁船乗組員」(既刊、税別1万5千円)、第2巻「アメリカ被ばく米兵と被ばく住民」(今秋刊行)、第3巻「旧ソ連、オーストラリア、日本」(21年刊行)。問い合わせは、すいれん舎(電話03・5259・6060、ファクス03・5259・6070)へ。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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