奈良県警奈良西署での実弾5発の「紛失」が実際は配分ミスだった問題で、無実にもかかわらず窃盗の疑いで違法な取り調べをうけたとして、男性署員が県を相手取り、慰謝料など700万円余りを求める国家賠償請求訴訟を起こす方針を固めたことがわかった。5日にも奈良地裁に提訴する。
県警は1月、同署で管理する拳銃の実弾5発の紛失が発覚したと発表した。だがその後、実弾は実際には紛失しておらず、県警の配分ミスでもともと同署に渡っていなかったことが判明。県警は7月15日、配分ミスを明かすと共に、確実な点検を怠ったなどとして、当時の副署長らを所属長訓戒などの処分としたと発表した。
この問題をめぐり、県警は実弾の行方を調べる過程で、窃盗の疑いで20代の男性署員を任意で取り調べていた。
代理人の松田真紀弁護士らによると、男性署員は今年2月28日から3月8日まで、1日を除いて連日にわたり長時間、県警本部で取り調べを受けた。
男性署員は発覚前の朝に業務として1人で拳銃庫に入り、教わった通りに点検をしていた。窃盗や紛失に心当たりはなかったが、取り調べでは「刑事から『もうお前しかおらへんやんか』『いろんな罪名を掘り下げて何度でも逮捕する』などと言われた」という。自宅に家宅捜索が入り、妻も聴取された。3月にうつ病と診断され、休職した。
その後、実弾の「紛失」が配分ミスによるものだったと判明し、県警は7月14日に男性署員に謝罪した。
松田弁護士は取り調べが、自白を強要したり人格を否定したりする内容だと指摘。「紛失か盗難なのか不明なのにもかかわらず、客観的な証拠なしに男性を犯人視している。任意捜査というが、労働者として従わざるをえない状況にあり、強制力があった」と話した。
国賠訴訟で男性署員側は、こうした取り調べは、刑事らが職務中に故意によってした違法行為であるとして、著しい精神的・身体的苦痛を受けたことに対する慰謝料を求める方針。
朝日新聞の取材に応じた男性署員は「疑いをかけられて以降、不眠などに悩まされている」と吐露。「取り調べでは『(同期が)みんなうそつきと言っている』『LINEも何人もブロックしている』などと言われた」という。
「疑われた半年間は戻らない。家族も不安な時間を過ごした。違法かどうか、第三者の目線で判断してほしい」と話した。
県警監察課は今回の取り調べに対する認識について、朝日新聞の問い合わせに、「取り調べを行った職員に対しては、県警として、個別に事情を説明し謝罪しており、引き続き丁寧かつ誠実に対応してまいります」と説明した。(渡辺七海)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル