チャンネル登録者数176万人の「大食い系ユーチューバー」がいる。「谷やん」こと谷崎鷹人さん(29)。動画作りの苦労やこだわり、当初は想定していなかった大食い動画の楽しまれ方について語ってくれた。
谷やんは、自分でさばいたマグロの頭や、自分で揚げた大量の唐揚げをきれいに平らげる動画をユーチューブで発信している。
「トリチリ約4.5キロ」「蟹あんかけ炒飯総重量約6キロ」……。桁違いの量の大食い動画がチャンネル上には並ぶ。
一家の中では父と自分が結構食べる方だった。それでも、高校生のころは弁当を二つ食べる程度。
「大食いという自覚がないまま……」
「自分が大食いという自覚がないまま大学生になって、ひょんなことから自動車の運転免許合宿で一つ下の後輩とラーメンの替え玉対決をすることになった。その時に14玉食べて、周りから『めっちゃ食べるやん』と言われた」
自分が大食いだと気がついた谷やん。元々大食いにチャレンジする番組が好きだったこともあり、「自分の好きな選手に会える」と2014年に初めて出演した。しかし、上には上がいて、チャンピオンにはなれなかった。
「チャンピオンは胃袋の構造が違う。食べ方の研究もしていた。まわりが強すぎた」
大学卒業後、地元の不動産会社に就職したが、「大食いで食べていきたい」という思いが募った。
15年に会社を辞め、アルバイトをしながら大食いタレントの道を模索した。ただ、当時、男性の大食いタレントのニーズは少なく、たまにイベントの仕事がある程度だったという。
「空いた時間に自分で発信できる力を持ちたい」と思って17年1月に始めたのがユーチューブだった。
機械操作に疎く、最初は、レトルトカレーを10種類食べるなどの短い動画で手探りを続けた。
手応えを感じたのは、17年夏にアップした総重量6.5キロの巨大おにぎりを食べる動画。
巨大おにぎりで「パーンと跳ね上がった」
「一気に再生回数とコメント数がパーンと跳ね上がった」
アップから5年たった現在の再生回数は650万回超。コメント欄には「料理上手だし、食べ方もとても綺麗で惚れる」「最初から最後まで美味しく食べるし、こんなに食べるのは凄い!食レポ上手だなぁー」といったコメントが並ぶ。
「こういうことなのか」
ユーチューバーの自分に世間が求めているニーズがわかり、自信がついた。
「受けたからといって、ネタ作りに走りたくない」
そんな思いから、企画はあくまで「その時に食べたいもの」に徹している。自分が食べきれる量を計算して料理しているので基本は食べ残さない。
しかし、毎食、大食いをしているわけではない。
「胃袋が骨盤までいっちゃう」
「そんな食生活を続けていたら、間違いなく内臓壊れますよ」と笑う。
さすがに6キロもの量を食べると、「胃袋が骨盤までいっちゃう」という。
「よく妊婦さんが赤ちゃんが生まれる直前に骨盤が開く感覚があるって聞くんですけど、それと似たような感覚が僕らにもあるんですよね。骨盤が開いてきて、足が開いてくるような感覚なんですよ」
それだけの量を消化するには数日かかる。腹ごなしが終わらないと、次の動画撮影に入れない。
桁違いの量を食べてもスリムな体形を維持している。
「油ものをがっつり食べたからといって一気に太ることはなくて、ぼくの感覚では3万キロカロリーとか摂取しても、体がむくむなという感覚はあるが、体重が一気に5キロ増えたとかはないんですよ。効率がいい動物ではないので全部は吸収しないと思うんですよ」
動画でこだわっているのは清潔感。キッチンの天板の汚れ一つが気になる。アップになる手先は特に重視。爪をきれいにきりそろえるだけでなく、毛が映らないように腕や手の毛はそっている。食材がきれいに映るように気をつけている。
道具にもこだわる。最初はホームセンターで購入した2千円のステンレス包丁を使っていたが、魚をさばくと刃が曲がってしまう。いい包丁を探してネット検索をしていると、目にとまったのが堺市にある青木刃物製作所のブランド「堺孝行」。
かっこいいので使っていると、青木刃物製作所の青木俊和専務からお礼のメッセージが届いた。以来、「堺孝行」を愛用し、40本を超す包丁の8割以上を占める。
料理は好きだったので本などで学びながら作っている。今は和食の技など、新たな調理技法の習得に挑戦している。
視聴されるにつれ、妥協したくないという思いが募り、結果、ボツ動画も多くなった。
歯の治療直後に撮影した際は歯茎から血が出てしまい、撮影を打ち切ったこともある。自分の話し方が知識を押しつけているように感じてボツにしたこともある。
「自分が納得できないものはアップしたくない。その結果、お待たせして『谷崎不足』というコメントを頂き、申し訳ない」
チャンネル登録者数が176万人を超え、色々な人が見ていると感じる。お酒が好きな人、ご飯が好きな人、料理が好きな人、きれい好きな人……。
「代わりに食べてもらっている感覚」
当初は想定していなかった見られ方をされていることにも気がついた。
「食べられない自分の代わりに食べてもらっている感覚になる」
そんな風に最初に声をかけてくれたのは柔道選手。大会前の減量時期に動画を見て満足してくれていた。
食事制限のため、点滴で命をつないでいた白血病の男の子は病床で大食い動画を見続けてくれた。
「自分の動画は小さな子が見ても面白くないと思っていたので、本当にありがたいです」
当面の目標はチャンネル登録者数200万人を達成し、ファンとの交流イベントを開くことだ。
「今のスタンスは変えたくないが、ずっと同じことを続けていてもしゃーないなとも思う。今後は公開収録して、『みなさん、遊びに来て』といった感じのものもやってみたい」(井石栄司)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル