車いすでも、釣りをしたい――。そんな人たちのために、車いすでも利用可能な釣り堀や遊漁船が全国で少しずつ増えている。
先駆けと自負するのは、20年近い実績がある「忠彦丸」(横浜市)。10隻ほどある釣り船のうち、2隻はバリアフリー対応になっている。
けがで車いすになったという客から「何とかして船釣りができないか」との相談を受け、船を改造したという。段差をなくし、複数の車いすが入れるスペースを確保。2隻のうち1隻には車いすでも入れる水洗トイレを備えつけた。
口コミで評判が広まり、今では50人以上の固定客がいる。黒川和彦代表は「釣り好きだった人がけがなどで障害者になる場合もあり、車いすで釣りを楽しむ人は増えている」と話す。福祉施設のほか、車いす利用者がいる職場のレクリエーションとして団体客が来たこともあるという。
長崎県佐世保市では、障害者専用の貸し切り遊漁船「海馬瑞峰丸」が3年ほど前から営業中だ。
本業は造船業の山下勝也さん(50)が遊漁船事業への進出も考えた時、自宅近くの海沿いの道路から車いすで釣り糸を垂れていた人を思い出したという。人づてにこの人を探し出し、遊漁船づくりにアドバイスをお願いした。
海馬瑞峰丸では、乗船前に障害の内容を聞き取り、必要なら転倒防止用のベルトや柵を用意している。脳性マヒの子の家族連れなども利用した。山下さんは「車いすに限らず、例えば発達障害があって、家族が周りに気を使う場合もある。そういう人も気兼ねなく利用できる場所にしたい」と話す。
釣り堀のバリアフリー化も進んでいる。
2014年にオープンした神奈川県三浦市の「J’s Fishing 城ケ島海上イケス釣堀」は、車いすでも海上釣り堀を利用できるよう、バリアフリー化している。月に1、2人は車いすの客が訪れるという。
釣り桟橋がある熊本県水俣市の湯の児フィッシングパークは14年、改修工事で車いすが使える昇降機や多目的トイレを整備した。
ニジマス釣りが楽しめる東京都青梅市の奥多摩フィッシングセンターは19年、渓流釣りとは別に、都内初の車いす専用釣り堀を整備。軽くてさおの長いたも網や、餌などを置ける専用の台も用意している。
木岡和恵事務局長によると、高齢者だけでなく、車いすの親が子連れで遊びにきたり、車いすに乗った子どもが釣った魚を焼いて帰ったりと、若い世代にも利用されているという。「コロナ禍で途絶えた客足が徐々に戻ってきており、車いすでも釣りを楽しめることを周知していきたい」と話す。(渕沢貴子)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル