大山稜、岩田恵実
工事現場を囲う「壁」が、東京都内などで変わり始めている。色のついたフェンスではなく、先が見通せる透明なものが使われることが増えてきた。普及を後押しした要因の一つは、色つきフェンスで見通しが悪くなっていた道路で起きた交通死亡事故だった。
京王線明大前駅に近い東京都世田谷区の丁字路交差点。信号機や横断歩道はなく、線路の高架化工事のためフェンスが数十メートルにわたって周囲を囲っている。
一見「危険な交差点」だが、買い物帰りの女性(71)に尋ねると「安心して歩けます」。交差点の角の部分にかかるフェンスは透明で、近づいてくる車の様子も確認できる。フードデリバリーのためバイクで頻繁に通るという男性(24)も「駅に向かって早歩きをする人が多いので助かります」と話した。
交差点やカーブに面した現場で使われている透明なフェンス。どの程度普及しているのか正確なデータはないが、工事資材を扱う都内の複数の業者に取材すると、受注は近年急増しているという。
交通事故への対策に取り組む警視庁は2019年3月から、道路使用許可の申請を出す工事業者に透明フェンスを使うよう要請してきた。東京五輪・パラリンピックに向けた再開発や建設ラッシュに合わせた取り組みだ。昨年2月に起きた交通事故をきっかけに、警視庁はさらに働きかけを強めている。
東京都港区の交差点で、横断歩道を渡っていた小学3年の大久保海璃(かいり)さん(当時8)が車にひかれて亡くなった。主な原因は運転手の「ながら運転」だったが、付近の工事現場で使われていた色つきフェンスや標識のため見通しも悪かった。
警視庁交通総務課の担当者は「業者の理解が進んできた。今後も利用を促していく」と話す。一方で「見通しのよい場所も事故のリスクはある。歩行者や運転者は注意して通行してほしい」と呼びかける。
弱みは価格 事故抑止以外のメリットも
透明フェンスの弱みはその価格だ。ある資材会社では、高さ2~3メートル、幅50センチのフェンス1枚あたり、色つきと透明では約1万円の価格差があるといい、業者の負担は小さくない。
ただ、公共工事を多く手がけ…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル