2030年冬季五輪招致に向け、札幌市は29日、経費を削減した開催概要案を公表した。新型コロナウイルスの感染拡大下で、ほぼ無観客で行われた東京五輪の経費がふくらみ、五輪のあり方への疑問もあるなか、五輪招致の機運がどこまで高まるのか。今回の計画について識者に聞いた。
鈴木知幸・国士舘大客員教授(スポーツ政策学)
元東京都職員で五輪招致に関わった鈴木知幸・国士舘大客員教授(スポーツ政策学)の話
大会運営費の見積もりが甘く、実際には支出がさらに膨らむ可能性がある。既存施設を五輪用に改修するには多額の経費がかかり、会場周辺の道路整備も必要となる場合が多いが、それも盛り込まれていないと考えられる。
今回示されたのは札幌市の負担分のみで、国や道の負担分が具体的に示されていない。会場を借りる長野県の負担割合も示されていない。東京五輪では開催決定後に費用負担をめぐり、東京都と国でもめる形になった。あらかじめ負担を明確にしてから道民に意向調査をすべきだ。
新たな感染症や災害などで開催が難しくなった場合に備え、IOCとの契約内容も説明すべきだ。五輪の開催都市はいわば「場所貸し」で、開催の最終的な決定権はない。東京五輪の反省を踏まえ、招致した場合のリスクも国民に示すべきだ。
舛本直文・東京都立大客員教授(五輪論)
オリンピックに関する研究で知られる舛本直文・東京都立大客員教授(五輪論)の話
これまでの五輪でも、計画段階の予算を低く見積もり、最終的な経費が4倍近く膨れ上がることがあった。終わったばかりの東京五輪の検証も十分なされておらず、世界的にはコロナ禍も収束していない。この時期の計画案の発表は、五輪に対する国民の違和感につながる可能性がある。
また、今回示された大会ビジョンでは「スポーツ・健康」「経済・まちづくり」「社会」「環境」が挙げられているが、オリンピズムの根幹である「平和」が抜け落ちている。
五輪招致には世界各国やIOCから賛同を得やすいテーマ設定が必須だ。インフラ整備やインバウンド効果による観光経済成長などは、結果的に付随するメリットであり、招致の目的として前面に押し出すべきではない。コロナで分断された世界への貢献方法などを明確に示し、東京五輪との違いを打ち出すべきだ。(聞き手・榧場勇太、佐野楓)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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