「都市部のごみ」に泣いた豊島 島の再生佳境

 瀬戸内の穏やかな海に位置する人口約760人の小島・豊島(てしま)(香川県土庄(とのしょう)町)。一帯は瀬戸内海国立公園に指定されている。のどかな島が全国的に脚光を浴びたのが国内最大級の産業廃棄物不法投棄事件だった。

 1970年代後半から産廃処理業者が、許可対象外のシュレッダーダストや廃油、汚泥などの産廃を島内へ搬入。野焼きなどを繰り返し、島には異臭が漂うようになった。住民は度々、異変を県に訴えたが聞き入れられなかった。

 その後、業者は90年に廃棄物処理法違反容疑で兵庫県警強制捜査を受けた。住民は国の公害調停を申請し、2000年に県と住民との間で調停が成立。そこから始まった島の再生へ向けた処理事業は、20年余り続いている。

 これまでに約91万トンの産廃が島外へ運び出され、汚染された地下水の水質の浄化作業が進む。22年1月からは、処分地の地下水の海洋流出を防ぐための長さ約340メートルの遮水壁(深さ最大18メートル)を取り外す工事も始まる予定だ。

 処理に関わる費用を国が支援する産廃特措法の期限が22年度末に迫るため県は事業を急ぐ。県によると事業は総額約820億円にのぼるという。だが処分地の一部では基準値を超える有害物質が検出されるホットスポットがあり、完全な浄化には至っていない。

 県はホットスポットなどのモニタリング調査で、水質の環境基準を達成した時点で、処分地を住民へ引き渡し、事業を終結させたい考えだ。しかし住民側は、処分地全域でのモニタリング調査を求めており、産廃で荒れ果てた一帯の植生など、島の将来像も危惧している。

 長年、住民団体の活動に取り組む安岐正三さん(70)は事件の影響で、代々続く処分地沖合でのハマチ養殖をやめた。安岐さんは「産廃問題を訴えれば訴えるほど島のイメージが悪化し、魚を売りづらくなった。板挟みだった」と振り返る。

 漁業をやめることを伝えた父親は「島のために徹底的に闘え」と言ってくれた。しかし父親は、その数カ月後に亡くなった。安岐さんは「最後までしっかり検証し、元のきれいな島に戻さないといけない。次の世代のためにも、私たちの代で片付けたい」と話す。

 一方で事件を豊島だけの問題として終わらせたくない思いもある。安岐さんは、こう訴える。

 「都市部による大量生産、消費、浪費のツケが豊島にもたらされた。環境や経済の側面からも皆が学ぶことはある」(池田良)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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