定額料金で期間中何度でもサービスを利用できるサブスクリプション(サブスク)。市場は今年度約6486億円(矢野経済研究所予測)に達する見込み。そんななか、お得な「酒場のサブスク」も広がっている。東京・銀座でスタートした日本初のクラフトビール専門のサブスクは、会員の来店頻度が店側の想定を大きく上回り、新規の「常連さん」がにぎわいを生んでいる。飲み屋さんに特化したサブスクアプリも続々登場している。(重松明子)
【写真でみる】スマホに表示されたバーコードを読み取り、ビールを提供
銀座の数寄屋橋交差点前。ビルの谷間に珍しい植物が生い茂る公共空間「銀座ソニーパーク」がある。ソニービル建て替えに伴い生まれた暫定的な新名所だが、パークの地下4階深くにクラフトビール&デリの専門店が潜んでいることは、あまり知られていない。
その店「ビア・トゥ・ゴー」は6月、月額2496円で1日1杯、最大17種類(500円)の個性豊かなビールが無料で飲めるサブスクを始めた。平日限定だが、仮に月20日“皆勤”すると実質1万円以上となるサービスだ。
展開するスプリングバレーブルワリーでは料金設定の根拠として「1カ月間で約5回の来店」を想定していたが、フタを開けてみればサブスク会員の2割が毎日詰めかけ、週2~3回が6割とかなりの頻度。「1杯だけの客」が大半で、もうけにならないのでは?
「それよりもにぎわいができたことが一番の成果。以前は、お客が全くいなくなる時間帯もあり、入りづらさで引き返す人もいたんです」と、白濱大知店長(38)が打ち明けた。
会員数は15日目で125人(取材日=7月1日現在)。うち1日約50人が来店している。「サブスク目がけて地下に降りてきてくれる新たな常連さんたちによって、人の流れと活気が生まれた。パーク側からも評価していただいています」と白濱店長。
サブスク会員は徒歩圏内の会社に勤める人がほとんど。年代は20~50代とまんべんなく、女性よりも男性がやや多い。店の席で飲む人と持ち帰りが半々だ。
「クラフトビールが大好きで、サブスクを知ってすぐに会員登録した」という貿易会社勤務の男性(28)は週3回ペースで来店。「できるなら毎日でも通いたい。会社を出た後、ビールを飲みながらひと仕事したり、地上に移動して飲んだり、イベントにも参加しました。すでに生活の一部になっている」とすっかりファンになったもようだ。
日本初の定額制コーヒースタンドを展開するファビー(東京都新宿区)が6月から始めた「飲食店のためのサブスクツール」の提供第1号がビア・トゥ・ゴーだ。
ファビーが運営するグルメ情報メディアに店舗情報を掲載できるなどのサービスを受けられる「プレミアムプラン」の加盟店が対象。店側に新たな料金は発生しない。「サブスクで固定収入を確保し、経営の安定化を図ってほしい」と同社。サブスク会員のレジデータの蓄積が、店舗の営業改善に役立てられるメリットもあるという。
サブスクは、スマートフォンなどで使うアプリにも「進出」している。
2月にスタートした月額500円で毎日、最初の1杯が無料になるサブスクアプリ「nomocca(のもっか)」。会員数は5千人に迫り、利用できる登録店は東京の渋谷や新宿を中心に380軒(取材日=7月2日現在)にのぼる。
「お酒1杯の原価負担で、お酒好きな方々と接点が持てます」と売り込むのは、運営する「トライブ」(東京都目黒区)の高橋史弥社長(29)。店側の料金負担は不要。客単価4~5千円のカジュアルな居酒屋などが多く、会員は30歳前後の社会人が中心。無料の1杯だけで帰る人はほとんどいないという。
高橋社長が目指すのは、音楽定額配信「スポティファイ」の酒場版という。「ユーザーの趣味嗜好(しこう)を分析して好みの曲を聴かせてくれるように、会員の利用履歴からその方に合った飲み屋さんをAIで導きだす。おすすめ提案の形で良質な店を応援したい」と、レコメンド機能の実用化に向けて開発を進めている。
登録店のダイニングバー「エビステッパンショウブ」(東京都渋谷区)の藤原寛成店長(29)は「サブスク経由の来店は徐々に増えており、将来的な展望に期待。こちらも意見を伝えており、お客さんにも店側にも、良い仕組みに育ててほしい」と話していた。
酒場のサブスクアプリは、昨年誕生したGUBIT(ぐびっと)、関西拠点のnomeru(のめる)、5月スタートのwelnomi(ウェルノミ)と競合が激化。渋いところでは、オーセンティックバー専門の「HIDEOUT CLUB(ハイドアウトクラブ)」が月額1500円で毎日、都内100軒以上の登録店でウイスキーやカクテルが1杯無料でいただける。
一昔前は「カン」を頼りに新たな店を開拓したものだが…。スマホのサブスクアプリを手に夜の街を徘徊(はいかい)するのが、令和流になるのだろうか?
Source : 国内 – Yahoo!ニュース