「鉄道で暮らし豊かに」の期待、今や的外れ? 川辺謙一さんの交通論

 日本で鉄道が開業して150年。その間、鉄道は社会や経済の発展を支えてきましたが、自動車社会の到来などで国内の交通事情は大きく変わりました。ほかの輸送手段が発達した現代も、鉄道への期待が高いのはなぜか。交通技術ライターとして鉄道や道路、都市の取材をしてきた川辺謙一さんに聞きました。

かわべ・けんいち

 1970年生まれ。メーカー勤務後2004年にライターとして独立。著書に「世界と日本の鉄道史」「日本の鉄道は世界で戦えるか」など。

 ――日本では、鉄道に対してどのようなイメージが抱かれてきたと思いますか。

 「明治時代に鉄道が開業し、路線網が広がっていきました。そして鉄道は長らく国内交通の主役として機能し、社会を変えてきました。このため、鉄道が通ると、その沿線の暮らしが豊かになっていく印象があったと思います。戦後は新幹線の誕生や特急列車の増発が、経済成長を象徴する出来事と認識されたのではないでしょうか」

近代化への近道だった

 ――鉄道開業以前の物流は、どのような状況だったのでしょうか。

 「海運が中心で、東京や大阪などの都市には水路が張り巡らされていました。陸路は、幕府が江戸城防衛のために街道での馬車や大八車などの通行を禁じたため、車両交通が発達しませんでした」

 「明治政府は、道路整備よりも鉄道整備を優先しました。その方が短期間に国内交通の近代化を図ることができ、効率がよかったからです。また、日本は街道筋のように人口密集地が数珠つなぎになっているルートが多数あり、陸上での大量輸送を得意とする鉄道が能力を発揮しやすい。このため、日本全国に鉄道網が広がっていきました」

 ――鉄道は地域にどのような恩恵をもたらしたのですか。

 「まずは雇用です。鉄道の運営や維持は多くの労働力を必要とするため、鉄道は大きな雇用の受け皿となりました。たとえば車両などを整備する鉄道工場が設けられた地域では、鉄道の労働者やその家族が集まり、『鉄道の街』として発展しました。『鉄道の街』は国内に多数存在し、代表例には埼玉県の大宮や新潟県の新津があります」

 「工場が集まる工業地域の中には、豊かな工業用水が確保できることだけでなく、鉄道でつながることで、原材料や製品の輸送が容易になり発展した例があります」

明治期以降、輸送でも雇用でも活躍した鉄道。記事後半では、鉄道が経済成長の象徴となった過程や自動車の台頭、そして利用者が減った現状と活路について話します。

――ほかに沿線の人たちが受けた恩恵はありますか。

 「現在のようにトラック輸送…

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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