静岡県内で特殊詐欺の被害が後を絶たない。被害を受けたお年寄りは、どんなふうにだまされたのか。
「年齢や障害があることにつけこまれた。こんなやり方はひどすぎる」。浜松市の男性(78)は暗い表情でつぶやいた。
男性は視覚障害があり、両目の視力は光を感じる程度。ヘルパーの助けを借りながら、一人暮らしをしている。今年2月、現金とキャッシュカード1枚をだまし取られ、計78万円を失った。
男性宅に「浜松西署の署員」を名乗る男から電話がかかってきたのは、2月8日の午後1時半ごろだった。
「多くの高齢者が、特殊詐欺の被害に遭っている。署が入手した被害者リストにも、あなたの名前が載っている」「昨日、歌舞伎町のコンビニエンスストアであなたの口座から現金20万円がおろされている」
キャッシュカードは自宅にあるのに、現金を引き出せるのだろうか。怪しいと思ったが、相手が男性の氏名や住所、家の特徴をすらすらと話したことから、本物の警察官だと信じてしまった。
男は「自宅に現金がいくらあるか数えておいてほしい」「現金は署でいったん預かってチェックする」と言って電話を切った。当時、男性の自宅には現金が28万円あった。週3回訪れるヘルパーに家事や買い物を頼むため、現金はいつもまとめて月の初めにおろしていた。
ほどなくして自宅を訪れた警察をかたる男に、男性は現金を渡した。男はさらに「キャッシュカードを見たい」と要求。詐欺の手口が一瞬、頭をよぎったが、警察官であることは疑わなかった。「カードは持っていかないでくれ」と頼むと、男は袋に入れてカードを返却した。中身がトランプのカードにすりかわっていたが、視覚障害のある男性にはわからなかった。「手触りでカードだと思い、安心してしまった」と振り返る。
男が立ち去った直後、男性は不安になってヘルパーセンターに電話した。詐欺を疑ったセンターからケアマネジャーを通して浜松西署に相談が行き、被害が発覚。だが、30分ほどの間に近くのスーパーのATMから、50万円が引き出されていた。
暗証番号を教えた記憶はなかったが、男性はカードと共に番号を書いたメモを渡してしまっていた。ヘルパーに現金の引き出しを頼むことが多く、わかりやすいように一緒に保管していたのが裏目に出た。
だまし取られた金額は、男性の生活費約4カ月分にあたる。「生きていても仕方がないんじゃないか」。被害後は不安で、悪い夢を見ることが増えた。
視覚障害がありながらも1人で生活してきたことに誇りを持っていた。「せめてこれ以上、被害に遭う人が増えないように」と取材に答えた。「障害を抱えながらも一人暮らしをしている高齢者も多いはず。詐欺の手口を知ってほしい」(魚住あかり)
後を絶たない被害 認知件数増加
男性の被害について静岡県警の捜査関係者は「障害のことを知っていて狙ったとは考えにくい」と話す。障害のある高齢者には介護者がついていることが多く、犯人にとってリスクが大きいからだ。一方、男性の氏名や住所などの個人情報が犯罪グループに流出していた可能性は高いとみる。
男性のように現金やキャッシュカードをだまし取られる被害は県内で後を絶たない。県警によると、2022年の特殊詐欺の認知件数は417件で前年に比べて43件の増加。被害額は9億429万円で前年比約1億3千万円増だった。今年は4月21日時点の速報値で、前年同日までを上回る119件、被害額は2億2千万円にのぼる。
県警はチラシを配るなどの啓発活動を続けているが、認知件数は増加傾向にある。生活安全課の担当者は「『自分はだまされない』と思うのは危ない。お金の話から入って、口座番号や暗証番号を聞かれたら怪しいと思ってほしい」と呼びかけている。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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