「かずえちゃん」の名でユーチューバーになって5年。ゲイだと公表し、生まれ育った福井市を拠点にLGBTQ(性的少数者)について様々な発信を続けている。
昔の自分のように、相談相手もなく一人で生きづらさを抱えている人たちに「そのままで、堂々と生きていていいんだよ」と伝えたい。そんな思いが活動の根底にある。
「自分はほかの男子と違うのかな」。そう自覚したのは小5の時。女子の誰が好きかが話題になっても、男子と手をつなぎたかったし、男の先生が気になっていた。
当時テレビのバラエティー番組などで「ホモ」や「オカマ」は笑いの対象だった。学校でも男子同士がふざけ合っていると、「お前らホモか」とからかわれたりした。「ゲイは恥ずかしいこと、ダメなことだとすり込まれていました」。だから「絶対に隠さなくちゃ」と心に誓った。
高校時代、同級生の女子と交際した。一緒にいて楽しかったし、「女性と付き合えば『治る』かも」と考えた。でも手をつなぐこともなく、あっけなく交際は終わった。
自分以外のゲイの人と初めて会ったのは就職後の20歳の頃。出会い系サイトで「ゲイ 出会い 福井」と検索した時の緊張を今も覚えている。「恋人が欲しいというより、自分と同じような人が本当にいるのか知りたかった」
24歳の時、両親にカミングアウトした。恋人ができ、友達だと偽って紹介したくなかった。「男性が好き」と告白し、「孫も見せられない」と謝ると、母は「つらい思いに気づいてあげられなかった」と一緒に泣いてくれた。父も「お前が幸せならそれでいい」と受け入れてくれた。
2013年夏、30歳でカナダに語学留学。決心していたことがあった。「ゲイであることを隠さず生きる」。カナダは05年に同性婚を合法化。街に同性カップルがいるのが普通の光景だった。カナダ人の恋人ができ、手をつないで歩いたり、互いの知り合いに紹介したりした。日本では人目を気にしてできなかったことが、当たり前にできた。
16年1月に帰国。カナダでの2年半が自分を大きく変えていた。「なぜ日本ではLGBTQが生きづらいのか。カナダでの経験を伝えたい」。半年後、ユーチューブを始めた。「福井で堂々とゲイだと言える日が来るとは思っていませんでした」と笑う。
自身の動画だけでなく、各地のLGBTQへのインタビューなども配信。毎年10月11日の「カミングアウトデー」には100人以上の声を伝える動画をアップしている。LGBTQへの理解は進みつつあると感じる。でも、30年前の自分と同じ悩みを吐露する10代も少なくない。差別や偏見は根強く、制度面の課題も多いのが実情だ。
5月、福井県の8町長の研修会に講師として招かれた。自身の経験や、同性カップルを自治体が公的に認める「パートナーシップ制度」を導入する意義などを語った。
「LGBTQに会ったことがないとよく聞きます。でも、いないんじゃなく、言えない社会なだけ」。LGBTQは左利きとほぼ同じ割合。町長らにそんなデータも示し、こう結んだ。「どの町も『だれもが暮らしやすい町』と掲げています。LGBTQがいることを忘れないでほしい」(佐藤孝之)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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