千葉県松戸市の会社員、橳島優(ぬでしまゆう)さん(34)は北海道・知床へ、3泊4日の一人旅を計画した。
週末のたび、各地を旅してきたが、知床は初めて。目当てのひとつが、船上から野生のヒグマを見ることだ。4月23日から今シーズンの運航を始める観光船があった。雪と氷に閉ざされていた知床は、一歩ずつ春へと向かい始めていた。
ただ、ネットから乗船を申し込んだのに、予約完了のメールがなかなか届かない。「ちゃんと予約できているのかな」。母(58)から「そんな会社のツアー、大丈夫なの?」と言われたが、「世界遺産の観光地だし、きっちりしているはず」と気にとめなかった。
同じ時期、母と妹(29)も北海道を旅行するという。「よかったら一緒に3人で行かない? レンタカーを借りて一緒に回ろう」と誘われたが、断った。
「回りたいところをもう手配しているんだ」。お互い、いい旅にしようね、と言い合った。
「帰ってきたら渡そう」父に用意した退職祝い
出発前日の21日。仕事帰りは雨だった。母が傘を持って駅に迎えに来てくれた。帰宅の道すがら、内緒の相談をした。
23日は父の65歳の誕生日。定年退職のお祝いも兼ねて、プレゼントにドローンを用意した。ドローンでの撮影は外に出かけるきっかけになるし、映像編集は頭も使う。定年後のよい趣味になると思う。「旅行前に渡したい。お父さんの喜ぶ顔が早く見たくて」。でも、母から「旅行から帰って家族みんなが集まったときに渡そうよ」と言われ、そうすることにした。
22日午前7時42分。
「楽しんでくるよ。お土産話、楽しみにしててね」
母にそう言い残し、通勤電車の時刻にあわせて家を出た。1カ月前の誕生日に家族からプレゼントされた紺色のウィンドブレーカーに、リュック姿。金曜日のこの日、仕事を終えると、その足で知床へ向かった。
「絶景を見てくる!」父に送ったLINE
同じ日、カンボジア在住の小…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル