福岡県みやま市の江良博信さん(62)は、日頃は地元の人と気さくに交流する阿蘇神社の宮司だ。夏場は、夜空に大輪を咲かせる花火師という、もう一つの顔も持っている。 【写真】打ち上げ場所から見上げて江良さんが撮影した花火 阿蘇神社は総本社が熊本県阿蘇市にある。海津の分社は1622年にできた。 江良さんは27代目の宮司。神道を学んでいた国学院大生の頃、父が亡くなり、22歳の若さで宮司になった。神社の管理やお宮参り、地域に呼ばれての祈願などが主な務めだ。 ただ少子化や高齢化で、お宮参り、安産祈願などは年々減っている。他の神社では、公務員や会社員と兼業する宮司も多い。江良さんも飲食店を営んだ。
30歳のとき、花火との縁ができた。親戚から「打ち上げの手伝いをしないか」と声を掛けられた。宮司は、正月や秋祭り時期は忙しいが、夏場には比較的時間に余裕がある。中学時代に花火工場の手伝いをした経験もあった。西日本花火(篠栗町)で働き始めた。 花火の玉を打ち上げる技術は、先輩の花火師に付きっきりで学んだ。火薬を詰め込んだ打ち上げ用の筒に玉を入れ、小さな手持ち花火のようなものを筒の中に投じる。瞬く間に火薬が爆発し、玉が打ち上がる。 誤爆すれば命を落とすこともある。危険と隣り合わせだ。「『いつ死ぬか分からない』という感覚は常にある。それでも『自分が花火を上げなくては』という使命感のような気持ちが湧き上がる」。見物する人を喜ばせたい、という気持ちが原動力だ。
宮司の務めをしている間は、言葉遣いや所作に細心の注意を払い、礼儀正しく穏やかに振る舞う。 その反動からか、花火を打ち上げる際は、爆音や熱気、開放感に魅了され、気持ちが高ぶるという。「妻からは『花火師の時は言葉遣いも顔つきも別人のよう』と言われる」と笑う。 毎年夏は、筑後川花火大会など九州各地の花火大会を巡る。だが今年は、新型コロナウイルスの影響で中止が相次いだ。「仕事は9割も減りました」
そんな中、全国各地で事前告知なしの小規模のサプライズ花火打ち上げが注目された。それを見て気付いたことがある。 「花火は形に残るものではないが、人の心を癒やす。神社に来る人たちも、心の安らぎを求めている。そういう意味では宮司と花火師は似ていて、自分に合っている」 今月末には、久留米市城島町で、サプライズ花火を打ち上げる予定という。 (平峰麻由)
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