原爆投下後の「黒い雨」をめぐり原告84人全員を被爆者と認めた広島高裁判決の確定を受け、広島市は2日、市内に住む53人に対して被爆者健康手帳の交付を始めた。その他の31人が住む広島県安芸高田市、安芸太田町、府中町の3市町でも交付が始まった。
この日、広島市役所の会議室には70~90代の10人が訪れた。職員から1人ずつ手帳を手渡され、医療費の自己負担がなくなることや、年2回無料で受けられる健康診断などについて説明を受けた。原告団長の高野正明さん(83)は両手で手帳を持ち、「長年の希望だった」と喜んだ。その上で「訴訟の過程で亡くなった人も多く、手帳に重みを感じる」などと語った。
菅義偉首相は7月27日に出した談話で、原告以外で「同じような事情」の人たちの救済についても早急に対応を検討するとしており、新たな枠組みづくりが今後の焦点となる。(比嘉展玖)
「みんなを救ってほしい」
「やっと手にできた」「早く決断してほしかった」。待ち望んだ人たちは喜ぶとともに、不満も口にした。
広島市役所の会議室で、同市佐伯区の隅谷芳子さん(81)は職員から受け取ったピンク色の手帳をじっと見つめた。5歳の時、現在の広島県安芸太田町で黒い雨を浴び、10年前に大腸がんを患った。「諦めていた手帳をやっと手にすることができた。長年の訴えが届いたことを実感した」。手帳を持つ手を震わせ、涙をぬぐった。
同区の遠藤フデ子さん(83)は、夫の栄さん(90)とともに車椅子で手帳を受け取った。「ずっと本当のことを言ってきたのに信じてもらえなかった。手帳をもらえてうれしい」。あの日、一緒にいて黒い雨を浴びた友人は原告に入れていない。「時間や経済的な事情もあって、裁判をしていない人はいっぱいいる。みんなを救ってほしい」
同じ佐伯区の庄野喜信さん(76)は生後11カ月の時、母親の背中で黒い雨を浴びたという。小学校の同級生3人と原告に加わったが、うち1人はがんを患い入院している。「友人が生きている間に交付が決まってよかったが、すでに亡くなった人もいる。もっと早く決断してほしかった」と話した。
7月27日に出された首相談話は、今回の訴訟の原告でなくても「救済できるよう、早急に対応を検討する」としている。広島市によると、「(原告と)同じように黒い雨を浴びたが申請できるか」「私が住む地域も援護対象区域に入っているか」といった問い合わせが2日までに68件寄せられているという。(比嘉太一、比嘉展玖)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル