長野県松本市の乗鞍岳位ケ原(くらいがはら)付近(標高約2400メートル)で14日午前10時ごろに雪崩が発生した。長野県警松本署によると、1人が心肺停止の状態で発見された。現場にいた男性が、当時の様子を語った。
「雪崩だー」。現場の斜面を登っていた40代の男性登山者は、上の方で危険を知らせるそんな声を聞いた。
その瞬間、自分が立っている足元がそのまま崩れ、まるで雪の上を滑っていくような感覚に陥った。横を見ると、太い木があり、すかさず飛びついた。あっという間の出来事だった。気がつくと腰まで雪に埋まっていた。
男性がふもとの登山口を出発したのは午前6時ごろ。雪質がいつもより柔らかく、足をとられながらの登山で、予想より時間がかかった。ほかの登山者も同じで、男性を含めて8人が自然と縦一列に並ぶようになっていた。午前10時ごろ、その列を雪崩が襲った。
雪から抜け出し、「誰かいないか」と叫ぶと、「助けてくれ」と声が聞こえた。見渡すと数人が雪に埋まり、腕や顔だけが雪の上に出ている状態だった。木と雪の間に挟まっている人もいた。「苦しい」と訴える人たちを、1人ずつ雪から掘り起こした。前を歩いていた2人は20メートルほど下まで流されたが、自力で抜け出すのが見えた。
男性によると、雪崩が収まったあと、現場には木が密集した場所を境に大小の二つの雪の流れができていた。5人が大きな流れの方に巻き込まれたが、自身も含めいずれも10分ほどで外に出ることができた。
「1人いない」。グループで登っていたうちの1人がなかなか見つからなかった。長野県警のヘリコプターが上空を旋回するのが見えたが、降りられない様子だった。「俺たちで見つけるしかない」と周辺の登山者ら30人が集まり、雪に棒を刺しながら、埋もれた遭難者を捜していった。
最後の1人が見つかったのは、雪崩発生から約1時間40分が経ったころ。二つの雪の流れのうち、小さな流れの中だったという。雪下約50センチから見つかった。医師でもある男性は「奇跡が起きてほしい」と祈りながら心臓マッサージをしたという。
男性はその後、自力で下山。登山をよくしており、雪崩に対する知識もあったが、「まさか自分が巻き込まれるとは思わなかった」と語り、その恐ろしさを振り返った。(田中奏子)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル