ドラマも映画も1・5倍速で見る。慶応大4年の女子学生(23)が動画の倍速視聴を始めたきっかけは、2020年に始まったコロナ禍だった。
当時は大学2年生。配信が始まったばかりのオンライン授業は、教室での授業に比べて退屈だった。試しに倍速機能を使ってみた。
「意外と無理なく視聴できた」。すぐに、ほかの授業や動画も倍速視聴をするようになった。
縮めて生み出した時間を、ユーチューブやネットフリックスの視聴に回す。お笑い番組やK―POP、ジャニーズのドラマを一気に見た。
10秒ごとに早送りできる「スキップ機能」も使う。お気に入りの芸人が出ている番組の面白そうだと思うシーンを探し出して見る。
ドラマも1・5倍速で見終わってから好きなシーンまで戻り、通常の速度でじっくり見返すことが多い。
「映画1本を見ただけでは『今日何してんだろう』と思っちゃいます」
情報をより多く 「自分の強み」に
逆に倍速で何本も映画を見られると、「今日はこんなに情報を知れたと感じ、自己肯定感を上げることにもつながった」。
友人の間でも倍速視聴は広がっている。同級生は「物語のストーリーに関係あるセリフは聞くけど、セリフのない情景描写はいらない」と語っていた。別の友人にホラー漫画を紹介すると、「先に結末教えて」と聞かれた。
ある日、倍速視聴する様子を見た母から「そんなに生き急がなくてもいいんじゃない?」と突っ込まれた。
それでも、いまは倍速が心地いい。「なるべくいろんな情報を採り入れることが、ほかの同世代との差別化にもつながるし、自分の強みにもなる」と話す。
近畿大アンケートでは半数
倍速視聴の習慣化を裏付けるデータがある。
近畿大が2022年7月、オンデマンド授業の受講者約7千人に実施したアンケートでは、回答した約1200人のうち、ほぼ半数の48・5%が1・25倍や1・5倍の倍速機能を利用していた。
内訳をみると、1・25倍速が177人(14・3%)、1・5倍速はさらに多く423人(34・2%)だった。
成績に影響しているのだろうか。
倍速で見た学生と、通常速度で見た学生の成績に大きな差はない。平均点は、通常速度で見た学生が78点だったのに対し、1・25倍速の学生が77点、1・5倍速は76点だった。
近大は「視聴速度と成績に相関関係はみられなかった」と結論づけた。
早口で授業 お手本はユーチューバー
こうした学生の傾向にあわせ、教え方を見直した教員もいる。
兵庫教育大の小川修史准教授は20年秋から、オンライン授業の際に、通常よりも1・3倍ほどの早口で話すようにしている。170人ほどの受講生からは好評だという。
「眠たい」「モチベーションが上がらない」。コロナ禍が始まった直後の20年夏、ゼミの教え子からオンライン授業への不満の声が届いた。
オンラインでも学生の集中力を維持するには、どうしたらいいのか。注目したのがインフルエンサーと呼ばれるユーチューバーたちの動画だった。
身ぶり手ぶりを交え、「えー」「あのー」という言葉を編集でカットする。何より、少し早口で話す姿が印象に残った。
オンライン授業で「1・3倍速」を意識した早口で話してみると、学生の反応は上々だった。「今まで受けた授業で一番集中できた」「テンポがよくて聞きやすい」との声が寄せられた。
早口で生み出した時間は、講義のポイントを繰り返し説明したり、質疑応答をしたりする時間にあてている。小川准教授は「学びを深められたことは大きなメリット」と話している。(豊島鉄博)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル