あと1カ月で事故発生から10年を迎える東京電力福島第一原発。敷地内の放射線量はかなり下がったが、廃炉作業は大幅に遅れ、30~40年で完了する目標はかすんできた。廃炉の最終的な姿を語らずに時期だけを掲げるこれまでのやり方は、限界に近づいている。
「目標通りできないのはじくじたるものがある」。国と東京電力は昨年12月24日、福島第一原発で2021年中に予定していた溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の取り出し着手を1年程度延期すると発表した。東電の廃炉部門トップの小野明氏は、記者会見で無念さをにじませた。
直接の理由は新型コロナウイルスだった。英国で開発中の専用ロボットアームの動作試験が、工場への出勤制限などの影響で滞った。英国では変異ウイルスも猛威を振るい、日本へ運ぶめどもたたなくなった。
未曽有の原発事故を受けて、国と東電が11年12月に廃炉工程表を掲げてから、工程は遅れに遅れを重ねてきたが、今回の延期には特別な意味がある。「30~40年後に廃炉完了」と並んでずっと堅持してきた「10年以内のデブリ取り出し着手」という重要目標を断念したことになるからだ。
デブリは、溶けた核燃料が周りの金属などと混ざりあって固まった物質。強い放射線を放ち、ロボットすら容易に近づけない。硬さも成分も、どこにどれだけあるかも詳しくは分からない。1~3号機に残る総量は推定で約800~900トン。その取り出しは、前人未到の最難関の事業だ。
当初の工程表では、取り出し前に遠隔でデブリを切断・掘削して性状を調べることも想定していた。だが、カメラ調査すら予定通り進まず、進むほどに困難さがみえてきた。国と東電は改訂にあわせ、着手時の取り出し規模を「小規模」から「試験的」へと後退させたが、「10年以内」だけは変えなかった。「30~40年」の全体シナリオを守るための一線だったからだ。
今回延期された「2号機での試験的取り出し」で取るデブリの量は数グラム程度。実際の作業は、長さ約22メートル、重さ約4・6トンの特殊鋼製ロボットアームの先端に付けた金属ブラシでデブリの表面を拭ったり、小さな真空容器でチリを吸い取ったりするだけだ。懸命につなぎとめてきた目標が、コロナ禍でついに取り繕いきれなくなったのが実情だ。
それでも、廃炉を技術面で率いる原子力損害賠償・廃炉等支援機構の山名元・理事長は「1年の遅れは、全体の遅れに比べたらたいしたことない」と話す。廃炉完了の時期を見直す気もない。「今の時点で『40年は無理』なんてとても言えない。もうちょっと調べさせて欲しい。40年を目指して全力でやる。これ自体は、難しい仕事を進める一つの原動力なんです」(小坪遊、藤波優)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
Leave a Comment