米軍普天間飛行場の辺野古移設をめぐる「代執行訴訟」で、国の主張を認めた福岡高裁那覇支部の20日の判決の要旨は次の通り。
【埋め立て工事に必要な設計変更を沖縄県知事が承認しないことは法令違反か】
2023年の最高裁判決で、知事の不承認は公有水面埋立法に違反することが確定したにもかかわらず、知事は何ら対応せず、変更申請を承認していない。地方自治法245条の8第1項にいう「法令の規定に違反するものがある場合」に該当する。法令違反にあたる点については知事と国の間で、国地方係争処理委員会、福岡高裁那覇支部、最高裁で争われたが、最終的には23年の最高裁判決などで確定しており、知事の主張は理由がない。
【代執行以外の方法で是正することが困難か】
承認しないという知事の意思は明確かつ強固であるというほかなく、同法の定める代執行以外の措置で沖縄県の事務の適正な執行を図ることは困難であると認められる。知事は、国が埋め立て事業に関する問題解決に向けた対話の求めを無視し、十分な対話の場を設けないままに代執行を行うことは要件を欠くと主張するが、同法のいう代執行以外の方法に「対話」があたるとはいえない。
【設計変更を知事が承認しないことは著しく公益を害することが明らかと言えるか】
変更申請は、周辺に学校や住宅、病院などが密集し騒音被害や航空機事故の危険性などの除去が喫緊の課題である旨の指摘がされた普天間飛行場の代替施設を設置するための公有水面の埋め立てに関し、承認処分後の事情を踏まえた地盤改良工事を追加して行うなどのためのものだ。変更申請から約3年半が経過していることも踏まえると、変更申請の事務がこのまま放置された場合、人の生命、身体に大きく関わる普天間飛行場の危険性の除去がされず、または大幅に遅延することとなる。これを放置することは社会公益の利益を侵害するものにあたる。
知事は、住民自治、団体自治の観点から地方公共団体や住民にかかる公益が考慮されるべきであるとして、埋め立て事業に反対する沖縄県民の民意の背景にある沖縄戦以降78年にわたる歴史的経緯などを踏まえれば、県民の基本的人権の保障に大きく関わる本件で、県民の真摯(しんし)な同意を得ない状況で代執行をすることは認められるべきではないなどと主張する。
沖縄で地上戦が行われ、多くの県民が犠牲になったことや、戦後も「銃剣とブルドーザー」により米軍基地が建設されていった歴史的経緯などを踏まえれば、県民の心情は十分に理解できる。
しかし、法律論としては、「公益」とは法定受託事務にかかる法令違反などを放置することによって害される公益を念頭に置いたものだ。知事が最高裁判決を放置することは地方自治法の定める諸制度を踏みにじるもので、憲法が基本原理とする法の支配の理念や法治主義の理念を著しく損なうものだ。社会公共の利益を甚だしく害するものと言わざるをえない。
【付言】
今後十数年にわたって予定される工事を進めるにあたっては、さらなる設計概要変更などの必要が生ずる可能性もありうる。そのような事態が生じた都度、繰り返し訴訟による解決が図られることは国と地方との関係をみた場合、必ずしも相当とはいいがたい。県民の心情もまた十分に理解できるところだ。国としても、県民の心情に寄り添った政策実現が求められる。普天間飛行場の代替施設をめぐる一連の問題に関しては、国と県とが相互理解に向けて対話を重ねることを通じ、抜本的解決の図られることが強く望まれる。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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