北海道の山岳遭難では、低体温症による死者が後を絶たない。一人でも多くの遭難者を救うため、道警の山岳遭難救助隊は現場で「低体温症ラッピング」を実践している。どんなものなのか。記者が厳冬期の雪山訓練で体験した。
2月中旬、ホワイトアウトとなった十勝岳連峰・三段山の標高1300メートル付近。訓練に要救助者役として加わった記者は、隊員から「あるもの」を複数渡された。
「あたたかい……」
正体は、アウトドア用品店などでもよく見かける、たためるタイプのウォーターボトル。中身はお湯だった。アウターを緩めて胸元にいれると、まるで湯たんぽを抱いているようだ。
次は促されるまま、雪上のフカフカの敷物に横になる。下からブルーシート(1枚)、エアマット(1枚)、テントマット(2枚)、エアマット(2枚)、寝袋(2枚)。上側の寝袋に入ってから、さらに上から寝袋をもう1枚掛けて……。
最後に、一番外側のブルーシートで全体がキャンディーのように包まれ、ラッピング完了。時間にして、わずか4分ほどだった。
「(冷気からの)隔離・保温・(お湯による)加温。これで、低体温症の悪化を防ぎます」(隊員)
吹雪のなか、ストレッチャーに載せられ、搬送が始まった。密閉された姿は、はた目には「棺に入ったミイラ」のようだろう。それでも、特に息苦しさはない。顔面部分はほどよく開けてくれていたからだ。じっとしていたが、冷えもない。
「衝撃の少なさ」にも驚いた。ソリのようにロープに引かれ、25度の急斜面も下っていたはずだが、大きな揺れはなかった。隊員らが慎重に動いてくれたのが一番だと思うが、保温用のマットや寝袋が「クッション」になっている側面もあったと思う。
道警によると、このラッピングは2011年に道警の山岳遭難救助アドバイザーに就任した国際山岳医の大城和恵さんと協力して考案した。搬送中に症状が改善する人もいるなど、低体温症の悪化を防ぐ措置として10年以上の実績があるという。
ラッピングに使用する資機材は、一般人でも入手可能かつ、登山の個人装備として汎用(はんよう)性が高いものばかり。地域や民間の団体の講習で実演することもあるほかYouTubeの道警公式チャンネル(https://www.youtube.com/watch?v=WTjSI4ECeII
訓練を通して、隊員が日々体力や技術、知識を磨いていることを実感し、感謝と尊敬の念がわいた。ただ、願わくば、お世話になることがないようにしたい。北海道では雪崩事故が相次ぎ、死者も出ている。山に入る人は準備、計画、トレーニング、天候の確認、撤退する勇気を徹底することが重要だ。(原知恵子)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
Leave a Comment