福祉施設のロックダウン 懸念と気付き
新型コロナウィルス感染症は介護施設にも拡がり、明日は我が身かと憂慮しているこの頃です。
そんな私たちのグループホームでは、2月下旬に面会者の制限を設けました。
風邪症状や体温を計測し発熱が認められる場合は、面会を控えていただくようにしたのです。
それで様子を見ていましたが、3月に入って全国的に感染が拡大したため、緊急時以外の面会はお断りすることにしました。
施設をロックダウンすること(面会禁止)は、高齢の利用者の生命を守るためにやむを得ないことですが、心配なこともありました。
今までインフルエンザやノロウイルスなどの感染症では、面会禁止が長期化することはありませんでした。しかし、この度の新型コロナウィルス感染症は、いつになれば面会禁止を解除できるのか先が読めないのです。
長期的にご家族などが面会に来なくなると、認知症利用者の心身に悪影響が出る可能性があります。
特に、ご家族が頻回に訪ねてくる利用者は、急に会えなくなって不安がつのることでしょう。
それでなくても利用者は、全員のスタッフがマスクをしていたり、テレビや新聞などの情報を見たり聞いたりして、いつもとは違う周囲の変化を肌で感じていらっしゃいます。
また、長期の面会禁止は利用者だけでなく、ご家族にも影響を及ぼします。
私事ですが、昨年昇天した母が他所の施設を利用している時、感染症が原因で面会ができなくなった期間がありました。
ほぼ毎日のように施設を訪問していたので、時間に余裕ができて身体は楽になったのですが、なんだか落ち着きませんでした。
母は寂しがっていないか、ちゃんとご飯は食べているか、ついに過保護な娘に化してしまいました。
だから、ご家族の気持ちが痛いように分かるのです。
そこで、会えなくなった利用者とご家族の不安を取り除くために、介護スタッフが取り組んだことがあります。
一つ目は、利用者からのビデオメッセージをご家族に見ていただくことです。
早速、でき上ったビデオメッセージを五島綾子さん(仮名87歳)のお嫁さんにお見せしました。
すると驚いたことに、ビデオメッセージでお義母さんにお返事をくださいました。
「感染症が治まったら、また孫と一緒に会い行くので、それまで元気でいてくださいね」。
心温まるビデオメッセージに、目頭が熱くなったのはお義母さんだけではありませんでした。
新型コロナウィルス感染症で緊張を強いられている私たちも、お嫁さんの柔和な笑顔で慰められたのです。
二つ目は、ご家族との文通です。
駿河裕次郎さん(仮名85歳)は、字を読んだり書いたりできるので、奥様から送られてきた手紙を、照れくさそうに何度も読み返していました。
三つ目は会話ができる利用者は、ご家族と電話でお話をすることです。
林田久仁子さん(仮名82歳)の弟さんは、毎日のように決まった時間に電話をくださって、お姉さんを励ましていました。
日々の暮らしを撮った利用者の写真は、これまで通りご家族に郵送することにしました。
どれもこれも特別なことではなく、少し工夫をして時間を捻出すればできることばかりです。
しかし、このような緊急事態にならなければ、ビデオメッセージなど思い浮かびませんでした。
さらに、今までのやり方に加え、利用者の日常を動画で配信したり、リアルタイムで会話ができるよう環境を整えると、利用者やご家族の生活に化学反応が起きるかもしれません。
実は感染症で医療崩壊が起こった時、最初に見捨てられるのは認知症の高齢者ではないかと、私は疑心暗鬼になっていました。
でも、今も昔も変わりないお互いを思いやる家族や夫婦の愛にふれ、俄然勇気がわいてきました。
新型コロナウィルスは頻繁に変異するという説もありますが、私たちもそれに負けず生活スタイルや価値観を変容させて、この危機を乗り越えましょう。
乗り越えた先には、また違った新しい風景が開けると信じて。
(注)事例は個人が特定されないよう倫理的配慮をしています。
■里村 佳子(社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム理事長)
法政大学大学院イノベーションマネジメント(MBA)卒業、広島国際大学臨床教授、前法政大学大学院客員教授、広島県認知症介護指導者、広島県精神医療審査会委員、呉市介護認定審査会委員。ケアハウス、デイサービス、サービス付高齢者住宅、小規模多機能ホーム、グループホーム、居宅介護事業所などの複数施設運営。2017年10月に東京都杉並区の荻窪で訪問看護ステーション「ユアネーム」を開設。2019年ニュースソクラのコラムを加筆・修正して「尊厳ある介護」を岩波書店より出版。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース
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