要介護で認知症もあるが、運転免許証の更新はできてしまう
「やはり、免許の更新はしようと思う」と、種田宏次さん(仮名73歳)はケアマネジャーにおっしゃいました。
種田さんは要介護認定を受けており、在宅で介護保険を利用してヘルパーや訪問看護サービスを使って生活をしていました。
歩行中急に膝折れすることがあるので何度も転倒を繰り返していました。それで、シルバーカーを使用しています。
一人で家に閉じこもることが多く、外出といえば病院受診をする程度です。ご家族は遠方にいるので、種田さんのことを気にかけていても、なかなか見舞うことができませんでした。
アルツハイマー型認知症なので物忘れはありますが、会話はできないわけではありません。また、不眠や不安を訴えられるので睡眠薬などを服用されていました。
このところ、箸を上手に使えなくなって食事をこぼすようになり、失禁も増えました。
そんな状態でしたから、運転免許の更新の話が種田さんから出た時、ケアマネジャーは更新をせず返納したらどうかと提案しました。
その時は一応納得されたようすだったのです。
ところが、主治医に免許の更新を相談すると、運転免許証は身分証明になるからと更新を勧められ、気持ちが変わったそうです。
それを聞いてケアマネジャーは耳を疑いました。主治医は種田さんの心身の状態をよく知っているのです。
もしかすると、主治医は種田さんが車を手放したので乗ることはないと思い、免許の更新をすることで自信を回復させようとしたのかもしれません。
身分証明書として運転免許証が必要なのであれば、運転免許証を返納して運転経歴証明書を交付してもらうことで代用できますから。
私たちは種田さんの免許の更新は無理だと考えていました。
高齢者講習のため教習所にタクシーで行くにしても、使用しているシルバーカーを自分で折りたたんで乗り下りすることはできないので、その都度運転手の手助けが要るのです。
それで、高齢者講習を受講することは可能なのかと半信半疑だったのです。
さらに、薬の副作用からか意識が覚醒してない時も多いのです。認知症があることはいうまでもありません。
ですが、驚いたことに更新できたのです。
「教習所の階段を登れず職員さんに抱えられて、高齢者講習を受けたけど更新できた」と、種田さんから嬉しそうに報告を受けたケアマネジャーの心の内は複雑でした。
このようなことは珍しいことではありません。認知症の診断を受けていても運転をしている高齢者はいるのです。
私たちはそんな高齢者にどのようにすれば運転を諦めてくれるのか頭を悩ましてきました。何度も運転の危険性を話しても、認知症の人は判断力が低下しているので、まだまだ自分は運転できると思い込んでいるのです。実際今までやっていたことはできないわけでもありません。
だから、周りのご家族や主治医やケアマネジャーなどと協力して、本人が納得して免許を返納するよう働きかけることが大切です。
しかし、親の認知症に気付き運転を止めさせようといろいろ試みているご家族もいれば、親の認知症を理解していないせいか、運転していてもそれを深刻に捉えていないご家族も少なくないのです。
高齢だからと言って一括りにして、運転する権利を奪うわけにはいきません。
高齢でも認知機能や身体能力が衰えていない人もいるのです。
せっかく介護保険制度があるのでそれを利用し、介護保険の申請をして要介護認定が出ている人には、高齢者講習のハードルを上げてはどうでしょうか。
それは、運転事故を起こす可能性の高い高齢者自身を守ることにも繋がります。
昨今、高齢者の運転事故がマスコミを賑わしています。
私はその話を聞く度に、人生を閉じる前に負う代償としては、あまりにも大き過ぎるとやりきれない思いでいっぱいになるのです。
(注)事例は個人が特定されないよう倫理的配慮をしています。
■里村 佳子( 社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム統括施設長 )
法政大学大学院イノベーションマネジメント(MBA)卒業、広島国際大学臨床教授、前法政大学大学院客員教授、広島県認知症介護指導者、広島県精神医療審査会委員、呉市介護認定審査会委員。ケアハウス、デイサービス、サービス付高齢者住宅、小規模多機能ホーム、グループホーム、居宅介護事業所などの複数施設の担当理事。2017年10月に東京都杉並区の荻窪で訪問看護ステーション「ユアネーム」を開設。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース
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