性差別が日常的に繰り返されると、そのうち感覚がまひしてしまう。40代の女性新聞記者、田中麻衣子さん(仮名)は「私自身が『オッサン化』していたかも」と振り返る。取材相手からホテルに誘われたり、体を触られたりしたことは一度や二度ではない。だが、仕事を任せてもらえなくなる不安から「男はそういうもの」と平気なふりをしてきた。同化を強いる男性社会が色濃いメディア業界。そこで働く女性の現実を見つめる。
同じ構図
既視感を覚えた。
2018年4月。財務事務次官による女性記者へのセクハラ問題が連日報じられる中、田中さんはかつて受けたセクハラについて思い出した。
「びっくりしました。目の前で報道されていることと、私自身に起きたことと、構図は全く同じでした」
話は1年ほど前にさかのぼる。
ある平日の夜、田中さんは自治体の男性幹部と会食していた。会社の同僚や自治体職員らも同席していたが、店を出ると男性幹部から「もう1軒、行こう」と個別に誘われた。
日中の取材では何度も顔を合わせていたものの、2人で飲みに行くのは初めてだった。ただ一対一で聞きたいこともあり、田中さんは2軒目へと向かった。
居酒屋のカウンター席で仕事の話をしていると、男性幹部は唐突に髪を触り始めたという。
「かわいいね。顔見せて。キスしたいな」
酔っぱらっているように見えて、明らかに意図した行動に映った。
「その幹部からセクハラされたことはなかったけれど、これまでも、取材先から同じような行為を受けたことがあったので、正直『またか』と。うっとうしかったので店を出ようと思いました」
帰り支度を始めると、男性幹部は「一緒に帰ろう」と言い、外に出ると手をつないできた。タクシーに乗ると今度は「家まで送る」と同乗してきた。
自宅前に到着すると男性幹部も降り、抱きつき、キスをしようとしてきた。田中さんは避けながら「きょうはありがとうございました」と告げ、家へ駆け込んだ。
再び顔を合わせたのはその1年後、財務事務次官が辞任した直後だった。日中、庁舎のエレベーターで偶然居合わせた男性幹部は言った。「もう、一緒に飲めないね」
田中さんは言う。
「私が正式に抗議していたとしたら、男性幹部は失職していたかもしれない。あの一言は、そういう意味での言葉だったんだと思います」
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Source : 国内 – Yahoo!ニュース