北海道・知床半島沖で4月、観光船「KAZUⅠ(カズワン)」が沈没した事故をめぐり、乗客の家族らが20日夜に、初めてオンライン会見を開きました。行政の責任、運航会社「知床遊覧船」の桂田精一社長に対する憤りを語った会見の要旨は以下の通りです。
【桂田社長の対応】
事故直後の謝罪会見以降は、桂田氏から直接連絡が来ることもない。個別の謝罪も受けていない。その後、弁護士に事故対応を依頼した後は、一切表に出てくることはなく、担当弁護士を通さなくては私たちも連絡を取れない状態。また、各メディアからの取材に対しても逃げ回り、説明責任を果たさない態度は、稚拙で誠意のない対応であると感じている。このような対応に、私たち家族は非常に遺憾に思っている。
個別の謝罪を依頼してから、数カ月が経った。桂田氏の弁護士からは、事故原因が判明していないことや、まだ行方不明者がいることを理由に、謝罪の時期を調整しているとの返答で先延ばしにされている。いまだに個別の謝罪にはいたっていない。
また一方で、誠意のない桂田氏からの謝罪を望まないご家族もいらっしゃる。今回のような事故を起こした会社の代表者は、事故被害者の家族に対して謝罪の意思があることを直接伝え、これからどのように対応していけばよいのかを考えていく責任があると思う。そして、公の場に出てきて真実を明らかにすることこそ、が人として誠意を見せる唯一の方法ではないか。桂田氏には、事故が起きた原因が自分自身にあることを真摯(しんし)に受け止めていただき、事故被害者およびその家族に対して誠意ある謝罪をし、生涯をかけて償っていく覚悟を持っていただきたい。
お願いになるが、メディアの皆さま方の力を借りて、桂田氏に今の気持ちをそして真実を語ってもらう場所を、どうかつくっていただけないかと思っている。
【行政の責任】
船の運航会社「知床遊覧船」に重大な責任があるというのは明白だとは思うが、会社にばかり責任を押し付けて、本来、その会社を監督しなければならない国の責任を忘れてはいけない。
まず、国土交通省が業務委託している日本小型船舶検査機構(JCI)の責任について。通信手段に関して、船舶安全法では、常に直接陸上との間で船舶の運航に関する通信を行うことができるものに限ると規定されている。(だが、知床遊覧船の)衛星電話や無線は両方とも壊れていた。船底の水路、水密隔壁の強度検査をしていないといった旅客船に対する検査が非常に甘く、人命軽視の検査体制でやっていた。
国交省の管理監督責任について。JCIに検査業務を委託している以上、検査のルールを確認して不足があれば修正させる必要があったにもかかわらず、そのルールの内容を全く把握していなかった。当然、抜き打ちで検査に立ち会うことをするはずもなく、全て任せきりで、全く管理監督していなかったという実情があった。
(知床遊覧船は)昨年2回事故を起こしており、特別監査を実施しているにもかかわらず、一時的に業務停止するなどの措置を講じなかった。安全を守る監督官庁として責任重大であると考える。エラーチェーンを断ち切ることができなかった。
救難救助体制の空白地帯であったにもかかわらず、見直しが図られてこなかった。再発防止の観点から事故後の検討委員会で多くの改善見直しがされているけれども、裏を返せばこれまで何もやってこなかった、放置していたということを露呈した形になっていると思う。
検討委員会で改善が図られて、どんなに立派で厳しいルールを作り上げても、それを作成することが目的ではなくて、そのルールが守られて、それが適切に運用されることが重要。国交省に管理監督の責任を果たしてもらって、我々みたいに、悲しい思いを生涯するような人がこれから出ないように祈っている。
【行方不明者の捜索】
海上保安庁ボランティアの皆さま、北海道警、漁業関係者その他、捜索に携わってくださっている皆さまには、大変感謝している。海保の皆さまには、事故発生時から縮小はあったが、これまでずっと捜索を続けてくださっていることを本当に感謝している。また、捜索ボランティアの皆さまには、これまで6回にもわたり、捜索してくださったこと、本当にありがたく言葉にならない思いです。
ボランティアの皆さまのおかげで、被害者の方がさらに数人家族の元に帰ることができた。そのことをきっかけに、海保や道警が集中捜索を何度かやってくださり、そして先日、また1人被害者の方が家族の元に帰ることができた。
海保や道警の方たちでさえ、うかつには近寄れない場所。何の知識装備もない私たち被害者家族が捜索することは不可能に近い。探しに行きたい。この手で見つけてあげたい。この手で連れて帰ってあげたいと、どんなに思ってもどうすることもできない場所で、私たちの家族は消息を絶った。今後もどうか捜索を継続してくださいと、お願いするしかない。
被害者家族も人生が根こそぎ変わった。大切な家族をこのような凄惨(せいさん)な事件で突然奪われ、地獄のようにつらい毎日。この先、どんなに時が経っても、自分たちのかけがえのない家族の命が軽視され、奪われたという悲しみは一生消えることはない。
今回の合同会見をするにあたり、行方不明者の家族、数人の方からも気持ちを伺った。つらすぎて現実を受け止めきれず、今まで自分の気持ちを話せなかった。初めて、自分の気持ちを書いたとメッセージをくれた家族もおられた。何も手がかりが見つかっていなくて本当に寂しいが、家族が元気に帰ってきてくれると今でも信じている。
今の捜索は結果が出ている。どうか、残りの行方不明者全員が見つかるまで、捜索を継続していただきたい。陸上や沿岸部などより、一層捜索態勢の強化をどうかお願いいたしたい。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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