【速報】手を変えた名人、間合いはかる 最先端の将棋に

 豊島(とよしま)将之(まさゆき)名人(30)に渡辺明三冠(36)が挑戦する第78期将棋名人戦七番勝負(朝日新聞社、毎日新聞社主催、大和証券グループ協賛)の第1局が10日、三重県鳥羽市の旅館「戸田家」で始まった。当初は4月8日に東京都内で開幕する予定だったが、新型コロナウイルスの影響で延期され、約2カ月遅れの開幕となる。

杉本八段への質問募集
名人戦第1局について、副立会人を務める杉本昌隆八段への質問をツイッターで募集します。いただいた質問の中からいくつかを、杉本八段が登場する「解説動画」で本人に伺います。動画はこちらの記事でご覧いただける予定です。ハッシュタグ「#杉本副立会人に聞きたい」をつけて、ツイッター投稿をお願いします。

 名人戦では恒例のファンらを集めた前夜祭や大盤解説会は行わない。対局室の換気を徹底するなどの感染防止策をとった上で、対局のみ実施する。

 初防衛がかかる豊島名人は「防衛戦ではあるが、何とかいい勝負ができるようにという気持ちです」。名人初挑戦の渡辺三冠は「いよいよ始まるという気持ちが一層高まってきた」と話した。(村上耕司)

拡大する名人戦第1局の初日、対局室に入る前に検温を受ける渡辺明三冠=2020年6月10日午前8時42分、三重県鳥羽市の戸田家、河合真人撮影

10:00

おやつ運ばれる

 対局者の自室におやつが運ばれた。あらかじめ注文しておいたメニューで、豊島名人は「フルーツ盛り合わせ」(スイカ、メロン、リンゴ、キウイフルーツ、アメリカンチェリー)。渡辺挑戦者は「チョコレートケーキとアイスコーヒー」。チョコレートケーキにはチョコレートのムースとブラウニーが盛り合わせてあり、フルーツが添えられている美しい一皿。戸田家洋食シェフの特製だ。アイスコーヒーだけは対局室に運ばれている。渡辺挑戦者の希望だそうだ。(佐藤圭司)

9日の対局室検分

「ねじり合いの熱戦指せたら」

 第78期将棋名人戦七番勝負(朝日新聞社、毎日新聞社主催、大和証券グループ協賛)の開幕を翌日に控え、豊島(とよしま)将之(まさゆき)名人(30)と挑戦者の渡辺明三冠(36)が9日、三重県鳥羽市の旅館「戸田家」で対局室の検分に臨んだ。

拡大する対戦を前に対局室を検分し、駒を確かめる豊島将之名人(右)と渡辺明三冠。中央は立会人の福崎文吾九段=2020年6月9日午後4時55分、三重県鳥羽市の戸田家、河合真人撮影

 同所では将棋や囲碁のタイトル戦が何度も行われ、名人戦は2007年の第65期以来6回目の開催。当初は5月の第3局が予定されていたが、約1カ月遅れで第1局が行われる。対局室の「3密」を避けるため、窓を開放し、開始時や終了時の入室者も制限する。

 豊島名人は「こういった状況にもかかわらず、対局を受け入れていただいて、感謝している。楽しみにしてくれる方も多いと思うので、ねじり合いの熱戦を指せたら」。渡辺三冠は「大変な中で名人戦に向けてご苦労があったと思う。そういう中で対局させていただくことをかみしめながらやりたい」と話した。

 今期の名人戦は、昨年、名人・竜王という将棋界の2大タイトルを獲得した豊島名人と、現在、棋王、王将、棋聖と最も多いタイトルを保持する渡辺三冠の頂上決戦でもある。

 対局は持ち時間が各9時間の2日制。10日午前9時に始まり、夕方に封じ手。11日午前9時に再開し、夜までに決着する見込み。第1局は振り駒で先手後手が決まる。立会人は福崎文吾九段(60)が務める。

ハイペースで対局

 日程の遅れに伴い、両者はハイペースで対局を消化する必要が生じている。今月だけでも10、11の両日、18、19の両日、25、26の両日に名人戦がある上、2人とも、並行して別々のタイトル戦を戦うからだ。

 東京都在住の渡辺棋聖は8日に藤井聡太七段(17)との棋聖戦五番勝負第1局を戦い、翌9日に名人戦第1局がある鳥羽市へ移動した。一方、兵庫県在住の豊島名人は名人戦第1局の後、東京へ向かい、13日に王位戦の挑戦者決定リーグを戦う。21日には、開幕が4月から延期された叡王戦七番勝負に挑戦者として臨む。王位戦でも挑戦者になれば、さらに対局が増える計算だ。

 豊島名人は「もともときつい日程と思っていたが、2カ月休んだことでかなり大変なのかと思っている。でも、きつい日程の後に実力がついたこともあったので頑張りたい」と話す。

10:15

名人が手を変える

 36手目(△4一玉)までの局面は過去3例ある。直近では2月29日の棋聖戦決勝トーナメント・藤井聡太七段―斎藤慎太郎七段戦。2月13日にも叡王戦決勝三番勝負第2局で渡辺と豊島が同じ局面を指している。この時は後手番の豊島が勝った。

 本局は豊島が先手番だが、豊島が▲4五歩と手を変えた。互いに間合いをはかるような展開で、最先端の将棋になった。

9:55

前期名人戦第4局と同じ局面

 33手目▲2九飛までの局面は、6月2日にあった棋聖戦決勝トーナメント準決勝の藤井聡太七段―佐藤天彦九段戦と同一局面。藤井七段が先手番を持って指し、111手で勝った。

 実戦は△5四銀▲3八金と進んで藤井―佐藤天戦から離れ、今度は昨年の佐藤天彦名人に豊島将之王位が挑戦した前期名人戦第4局と同じ局面になった。これは先手の豊島が勝っている。

9:15

戦型は角換わりに

 初手から▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩と互いに飛車先の歩を突き合って相懸かり模様の出だしだったが、ここから名人が▲7六歩。以下△3二金▲7七角△3四歩▲6八銀△7七角成▲同銀△2二銀と進み、角換わりの戦型になった。

9:00

先手は豊島名人

拡大する名人戦第1局の対戦を前に振り駒が行われ、豊島将之名人が先手となった=2020年6月10日午前8時56分、三重県鳥羽市の戸田家、河合真人撮影

 本局の記録係は高田明浩三段(17)。七番勝負の第1局の記録係は、先手後手を定める「振り駒」の重責を担う。

 最初は「振り直し」。近くにいた記者の目には、1枚が立っているように見えた。してみると、残りは歩2枚、「と金」2枚だったようだ。振り直した結果は「歩が3枚」。名人のタイトル保持者である豊島名人の先手と定まった。両者、飛車先の歩を突きだしたところで、報道陣は退出した。

 高田三段は岐阜県各務原市出身、関西奨励会所属、森信雄七段(68)門下。本局の副立会人2人のうちの一人、澤田真吾七段(28)も森七段門下で、高田三段と澤田七段は兄弟弟子の関係だ。「名人戦の記録係は初めて。やりたかったんです」。朝食の時に話を聞くと、高田三段は笑顔で話してくれた。(佐藤圭司)

拡大する名人戦第1局が始まる朝、昇る朝日が雲間をオレンジ色に染めた=2020年6月10日午前4時49分、三重県鳥羽市、河合真人撮影

9日

両対局者が戸田家に到着

 9日午後4時ごろ、対局場の「戸田家」に到着した両対局者ら一行は、寺田順三郎社長(68)らの歓迎を受けた。

拡大する検分を終えた豊島将之名人は芳名帳に「初心」の文字を書いた=2020年6月9日午後5時9分、三重県鳥羽市の戸田家、河合真人撮影

 歓迎スピーチで寺田社長は「当初の予定では5月の連休明けの第3局だったのですが、コロナ禍で中止があり、私どもが第1局ということになりました」と切り出し、「まずは安心、安全ということで、精いっぱいおもてなしをさせていただきます」とあいさつした。

 さらに、戸田家が1カ月以上営業を休んだことに触れ、「(名人戦という)大イベントは当館にとっても、鳥羽市という観光地にとっても大変ありがたい」と続けた。

拡大する検分を終え渡辺明三冠は、芳名帳に「志高」の文字を書いた=2020年6月9日午後5時15分、三重県鳥羽市の戸田家、河合真人撮影

 寺田社長が「渡辺挑戦者はぬいぐるみ好き」というエピソードを織り交ぜると、渡辺挑戦者が笑顔になる場面もあった。(佐藤圭司)


Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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