人気プロレス漫画「タイガーマスク」にあこがれた男性(34)が地元・横浜の児童養護施設に向けて、屋台での焼き芋の売り上げの一部10万円を神奈川新聞厚生文化事業団に寄託した。タイガーマスク同様、匿名にこだわり、“リングネーム”は自ら名付けた「イモヒキマン」。トレードマークのマスクをかぶり、軽トラックに積んだ窯でじっくりと焼き上げたホクホクの焼き芋に、子どもたちの健やかな成長を願う優しさとぬくもりを込めている。
遠い昔、父親のかすかな思い出といえば、屋台で焼き芋を買ってくれた幼いころの記憶だ。5歳のころ、両親が離婚。温かく、香ばしいかおりの焼き芋を手にするたび、遠く離れた父親のぬくもりをいまも思い浮かべる。
母親、そして地域の人に支えられて育った。人の役に立ちたいとの思いは、ごく自然に芽生えた。「子どもたちに『一人ではないよ』と伝えたい。小学生時代から熱中するタイガーマスクのように子どもたちのヒーローになりたい」。10代後半で暴走族のメンバーとなったが、仲間たちと競い合うように、児童養護施設の玄関先などにパチンコの景品の菓子を置いて回った。
結婚し、妻が子どもをみごもった時、幼少期の記憶がよみがえった。焼き芋の屋台を本格的に始めたのは4年前。友人の軽トラックを借り、窯とまき、イモを積み込んで即席の屋台を作った。全てが自己流、ゼロからのスタートだった。
「主流のガスと違い、まきは技術が必要だった。最初は燃やしすぎて、車両に燃え移りになった」。まきの燃焼加減を調節し、ゆっくりと温度を上げる。デンプンを糖に変える酵素の働きが最も活発になる50度前後を長く保つと、芋が甘くなることが分かった。
本業の傍ら、9月下旬から春先にかけて、横浜市保土ケ谷、西区、中区の街頭に立つ。土曜の夜は横浜駅西口五番街近くの路上で販売。東京の銀座や六本木にも出向く。味に加え、1本200円からのお手頃価格が人気を呼び、先々で大勢の子どもたちが買いに来てくれるようになった。「子どもを大切にする思いがあれば、誰でもヒーローになれる」。手応えを得た。
芋は人気の品種「紅はるか」。仕入れ先の横浜市中央卸売市場の青果卸や、まきなどを手配してくれる多くの仲間たちに支えられる。この冬は、中学生の娘がいる男性(45)が手伝ってくれるなど、支援の輪が確実に広がっている。
「(タイガーマスクの)伊達直人ではないけど、自分がイモヒキマンであることを自分の子どもたちに隠すため、わざと焼き芋に興味がないように振る舞っている」と明かす。
「これからも、施設の子どもたちを支援し続けていく」と誓う。春から秋にかけては焼き芋販売の休業期間。屋台を早く出したいとの思いが募る。芋が突き刺さった自慢のマスク姿でこう叫んだ。「俺の頭の中は焼き芋でいっぱいだ!」
Source : 国内 – Yahoo!ニュース