〈みちのものがたり〉
白く濁ったお湯に肩までつかる。硫黄のにおいが漂う。熱すぎず、ぬるすぎず、絶妙の湯加減だ。思わず、ほぅと息が出る。体にじんわりと温かみが広がる。
丸2日、十数時間かけて、登り下りを繰り返し、シャツが絞れるほど汗をかいた体が癒やされていく。あぁ、来てよかった。
ここは北アルプスの最奥、黒部川の源流に近い高天原(たかまがはら)温泉(富山市有峰)だ。登山道しか通じていない。西の富山市側からも、北の黒部ダムからも、南の岐阜県・新穂高温泉からも、徒歩で十数時間かかる。途中で山小屋に1泊しないとたどり着けない「日本一遠い温泉」と呼ばれる。ひと風呂浴びて戻るのに、健脚でも2泊3日、そうでなければ3泊4日必要だ。
標高2000メートル余り。その名も「温泉沢」沿いに手作りの湯船が三つある。いずれも石積みで、セメントで補強されている。沢から数メートル上がった高台に「からまつの湯」と女性専用の「美人の湯」があり、美人の湯はよしず張り。沢のそばに直径3メートルほどの露天風呂「野湯」がある。遮るものは何もない。脱衣場もない。抜群の解放感だ。
最も近い宿泊施設は、歩いて20分の高天原山荘だ。携帯電話は通じず、電気もない「ランプの山小屋」だ。記者が泊まった8月初旬は、宿泊者は幸い定員50人とほぼ同数で、寝床は1人1畳を確保でき、ぐっすり眠れた。
北アルプス最後の秘境といわれ…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル