あの人が生きていれば、いまどんな姿をしているだろう。親しい人を亡くした人たちのそんな思いに、水彩画でこたえている画家がいる。「一緒に入学式を迎えていたら」「結婚していたら」……。この3年で描いた「記念の絵」は150組を超える。
名古屋市中村区の大村順さん(35)は元似顔絵師。今は「絆画(きずなえ)作家」を名乗る。故人と遺族の絆を描く、という意味をその肩書に込める。
拡大するアトリエを兼ねた自宅で制作をしている大村さん。しわなど細い線が書き込みやすいため下書きにはパソコンを使っている=2020年7月28日午後6時25分、名古屋市中村区鳥居通3丁目、臼井昭仁撮影
依頼を受けると、必ず依頼者の元を訪ねる。生前の様子を2~5時間かけて聞き、希望する構図のA3判の作品に仕上げる。納めるまで1カ月ほどかかる。
愛知県内の高校を卒業後、イベント会社に所属しながら大型商業施設や結婚式場で似顔絵師として活動していた。
道を変えるきっかけは、中学生の頃からの親友が27歳で急死したこと。5年後、その母親が「一緒に記念撮影ぐらいしておけばよかった」と悔いていると知った。「それならば」と描いたのが、母親ら6人の家族に囲まれた、32歳になった親友の姿だった。
玄関で親友の母親に渡した際、「生きているみたい」と涙を流しながら感謝された。その瞬間から「絆画作家」として生きていくことに決めたという。
似顔絵師として1日最大124人、これまでに10万人以上を描いてきた。年齢を重ねると、しわがどのように現れ、顔つきがどう変わっていくか、また笑い方の癖などはつかんでいた。
絵を見た瞬間「次女だ」
依頼者を訪問した際に接写する50枚以上の故人の画像も参考にするが、重要なのは遺族から聞く「人となり」とその思いだ。
高校卒業後に亡くなった息子に…
980円で月300本まで2種類の会員記事を読めるシンプルコースのお申し込みはこちら
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル