陸に押し寄せる黒い波。街がのみ込まれていく様子は、あまりにも現実離れしていた。「大変なことが起きている」。それしか感じられなかった。ヘリコプターに乗って上空から津波を撮った。あれから10年余り。今は福島を拠点とするアーティストとして、風やエネルギーについて伝える作品を手がけている。
元NHKカメラマンで現代美術作家、東京芸大非常勤講師の鉾井(ほこい)喬さん(39)。9日まで群馬県中之条町で開催されている芸術祭「中之条ビエンナーレ」に出展している。町内各地に点在する会場のひとつ、古民家「やませ」に展示はある。丘の上にあるこの大きな古民家からは周囲の山々を見渡せ、風がよく通る。
テーマは「自然と人とエネルギーの関わり」
門の横には飛行機形の装置があり、先頭部分にカメラが取り付けられている。レンズの代わりに針穴のような小さな穴を利用して撮るピンホールカメラだ。風があるときは風力、無風のときには電力。自然の力と人工の力の双方で回転する。
古民家2階の一室には写真が2枚。1枚は外の装置で撮影し、もう1枚は福島県双葉町で同じ日に撮った。青、白、紫色がぼんやりと広がる写真は、太陽から地球へ光が届く8分19秒かけて撮影した。
その隣の部屋には、大きな銀色の装置の展示がある。装置についたプロペラを電気でまわし、そこで得られたプロペラの動力で装置が回転する。その装置が回転して起こる風を受けて、周囲につり下げられた枝も揺れる。別の部屋にも小さなプロペラがあり、人が息を吹きかけるとこの枝が整列する――。頭上では、原子炉のような円錐(えんすい)形のモチーフが屋根裏からつり下げられている。
作品名は「山に立ち風上を捉える」。テーマは「自然と人とエネルギーの関わり」だ。人は気づかないうちにも自然に支えられたり、エネルギーを使ったりしている。
「なぜ自分は生き残ってしまったのか」
鉾井さんは2010年にNH…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル