国が今年度から始めた「いじめ重大事態」の調査報告書の分析で、中学生や小学校高学年の被害が多いことがわかってきた。重大事態に至らないケースも含めたいじめの認知件数は、学年別では2016年度以降、小2が最多だが、深刻な事案に絞ると違った傾向が見えてきた。
文部科学省とこども家庭庁は今年度、全国の教育委員会や、私立学校を所管する都道府県などに対し、いじめのうち被害者が心身に深刻な傷を負う「重大事態」に至った事例の調査報告書の提出を任意で求めている。同報告書はこれまで全国規模での収集・分析が行われていなかったが、国は各地から提出された報告書について、広域的な視点で分析を進める考えだ。
両省庁は今年度、計135件(2月1日時点)の報告書を分析した。このうち学校種・学年が確認できた132件の被害者を学年別に見ると、中2が19件(14・4%)で最も多く、小5、小6、中1=各16件(12・1%)、中3=13件(9・8%)と続いた。最も少なかったのは小2で、2件(1・5%)だった。
生命に重大な被害があった事案は、高校が7件で最も多く、中学校と小学校高学年がいずれも5件だった。
一方、文科省の22年度の「児童生徒の問題行動・不登校調査」では、重大事態に至らない事例も含めたいじめの認知件数は、小2が全体の16・1%で最多。学年が上がるにつれて割合が下がり、中2は5・2%だった。
いじめの内容でも、問題行動調査との差が大きい項目があった。いじめ重大事態の報告書の分析では、「嫌なことや恥ずかしいこと、危険なことをされたり、させられたりする」事例の割合は31・0%(22年度問題行動調査では10・0%)、ネットいじめにあたる「パソコンや携帯電話等で、ひぼう・中傷や嫌なことをされる」は20・2%(同3・5%)だった。
これまで500件近い重大事態を独自に分析してきた教育評論家の武田さち子さんは、今年度始まった重大事態の分析について「学年が上がるといじめは悪質になり、大人に見つからないよう巧妙になることが明らかになった。重大事態の実態がわかったという点で、一歩前進」と話す。
ただ、重大事態報告書の国への提出が義務ではなく、任意である点に疑問があるという。「重大事態調査の質は様々で、報告書の内容に関して、被害者側と、調査を実施した学校・教委側が争いになるケースも少なくない。報告が任意だと、そうした事案が隠されてしまう恐れがある。分析をより正確なものにするためにも、国が強制力をもって報告書を集め、政策立案に生かしてくことが必要だ」(狩野浩平)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル