まもなく本格的な雨の季節に入る。近年は毎年のように記録的な豪雨が繰り返され、多くの人が犠牲になっている。政府は昨年、自治体が発令する避難情報の体系を見直した。適切なタイミングで適切に避難できるよう、改めて確認しておきたい。(吉沢英将、グラフィック=米沢章憲)
災害発生の危険度を5段階で示して伝えるのが、2019年に運用が始まった「警戒レベル」だ。レベルには大雨警報などの防災気象情報が位置づけられており、自治体はレベルに応じて避難情報を出す。昨年5月に災害対策基本法が改正され、今年は避難情報の運用が見直されて2年目。何が変わったのか。
警戒レベル「4」、避難指示に一本化
大きな変更となったのがレベル4だ。この段階は、気象庁が土砂災害警戒情報などを出すことが想定され、災害発生の直前という位置づけだ。従来、レベル4で自治体は避難情報として避難勧告か避難指示(緊急)を出すとしていたが、わかりづらいこともあって昨年から勧告は廃止に。「避難指示」に一本化された。危険な場所にいる住民はこの段階までに、避難所や高層階へ避難する必要がある。いわば避難の「最後通告」の段階といえる。
さらに事態が進行し、大雨特別警報などが発表されればレベル5に至る。レベル5ではすでに災害が発生している可能性が高い。レベル5の名称はこれまで「災害発生情報」だったが、昨年から「緊急安全確保」に見直された。避難所への移動は推奨されず、自宅の上層階や近所の頑丈な建物などへ緊急的に移ることが求められる。
一方、レベル4の前段階のレベル3は大雨警報や洪水警報が発表される段階。避難に時間がかかる高齢者や障害を持つ人たちが避難する段階として、自治体が出す避難情報はシンプルに「高齢者等避難」になった。
こうした情報は、自治体の防災行政無線のスピーカーや緊急速報メールなどで伝えられる。土砂災害や洪水、浸水の危険度がリアルタイムでわかる気象庁ホームページの「キキクル(危険度分布)」(https://www.jma.go.jp/bosai/risk/
避難指示、出ないことも
災害が起きる前、自治体が必ず適切に避難情報を出すとは限らない。昨年7月3日に静岡県熱海市であった土石流災害。静岡地方気象台と県は前日の2日午後0時半、熱海市に土砂災害警戒情報を発表。市はその時点で高齢者等避難(レベル3)を出していたが、避難指示(レベル4)への移行は見送った。土砂災害警戒情報が継続するなか、3日午前10時半ごろに土石流は起きた。
内閣府の「避難情報に関するガイドライン」は、土砂災害警戒情報が発表されれば直ちに避難指示を出すことが基本だと例示している。斉藤栄市長は発生直後の記者会見で「雨のピークは越えることが予想されていた」と説明した。この災害では、計画を上回る盛り土が被害を広げた。
こうした事態を受け、昨年10月に内閣府が全国123市町村にアンケートした結果からは、悩む自治体の姿が浮かぶ。「土砂災害の危険度や河川の水位が刻々と変わるため、発令判断が難しい」と回答したのは65・9%。「避難情報を出しても災害が起きず『空振り』になり、効力が薄れる不安がある」とした割合も62・6%だった。
線状降水帯予測も道半ば
今年は新しい情報も示される。気象庁は6月1日から、集中豪雨をもたらす「線状降水帯」ができる可能性が高いと予測できた場合、発生の半日前に予測情報の発表を始める。精度はまだ十分と言えず、発表範囲も「九州北部地方」「中国地方」など広域だ。
実際に線状降水帯が発生したことを伝える「顕著な大雨に関する情報」の発表基準を満たした2019~21年の事例で同庁が検証したところ、予測した地方で発生を的中できたのは約4分の1。予測できずに発生する「見逃し」は、3回に2回程度あったという。必ず予測できるわけでもないことがわかる。
長谷川直之・気象庁長官は会見で「『空振り』があることは認めざるを得ないが、油断せず警戒してほしい」と呼びかけた。線状降水帯の予測情報は自治体の避難情報に即座に結びつく情報ではないが、大雨に備えて個々がハザードマップを確認したり、避難の準備をしたりできる。
「行政ができるのはサポートだけ」
中央防災会議の作業部会で委員を務め、昨年の避難情報見直しに関わった片田敏孝・東大大学院特任教授(災害社会工学)は、見直しについて「自分の命は自分で守る、という高い主体性を求めていることが肝だ」と話す。
変更前は、レベル3で「避難準備」、レベル4で「避難勧告」からさらに「避難指示」と順序立てて情報が発令される流れになっていた。だが変更後は、準備と勧告という文言がなくなり、多くの住民にとって「避難指示」の一つに整理された。
これは何を意味するのか。片田特任教授は「行政が『この情報に沿って行動すればいい』と呼びかけるものではなくなった」という。今後はレベル4の「避難指示」という1度の最後通告までに「自分で避難を判断することが求められる」と言う。
変更の背景に、線状降水帯による豪雨や、土砂災害といった予測の難しい災害が頻発していることを挙げる。「自然が相手なだけに、気象庁や行政がいつも適時、適切に情報を出し続けることは難しく、限界がある。行政ができることはサポートに過ぎない。住民一人ひとりが災害に関心を持ち、自分の命を自分で守る姿勢を持ってほしい」
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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