お子様はお断り 「殺人担々麺」 自慢の一品記者も舌鼓

 黒地の背景に血を思わせる赤い色の筆文字。「殺人担々麺」と書かれた看板は、福岡市のJR博多駅近くのオフィス街にある。記者は半年ほど前に福岡に赴任した直後に見つけたが、店に入る勇気はなかった。しかし先日、意を決して飛び込んでみた。「殺人」とは穏やかではない。いったい何が出てくるのか……。

 その店の名は「陽華楼」。ドアを開けると、壁にはたくさんの貼り紙があった。

 「お子様や高齢者、心臓の弱い方はご遠慮ください」

 「内臓や腸に疾患のある方は注文不可」

 「刺激に弱い方注文しないでください」

 不安が募る。それでも「記事のネタのため」と自分に言い聞かせ、「殺人担々麺」を注文した。「殺人、一つ入りました」とオーダーの声が飛ぶ。しばらく待つと、お店の人がにこやかな顔で担々麺を持ってきた。

 「殺人、お待たせしました」

 あれ、見た目は普通の担々麺だ。だが、添えられているレンゲをよく見ると、なにやら赤みを帯びた薬味が乗っている。「殺人の薬味」。これをスープに溶かして食べるのだという。

 まずはひと口、薬味を溶かしてスープを味わう。思わずむせた。口の中を酸味とともに唐辛子の強烈な刺激が駆け回り、唇がひりひりと痛む。何とか食べ進めると、顔中から汗が噴き出て、止まらなくなった。コップに何度も水を継ぎ足し、何とか完食した。

 ただ、クセになる辛さだ。辛さの刺激とスープのコクが絡み合う。後日、改めて「殺人担々麺」を食べた際はスープまで飲み干してしまった。水を大量に飲みながらだったが。

     ◇

 そもそも、なぜ「殺人担々麺」という不穏なネーミングにしたのだろう。店主の平山博文さん(50)に聞いてみた。

 「面白くてインパクトがあるでしょう」と平山さん。「他の店がやらないことをやって目立つため」だという。

 陽華楼は41年前に平山さんの父親がはじめた「普通の、街の中華料理屋」だった。当時は周囲に飲食店も少なく、多くの常連客が通ってくれた。しかし、競合店が増え、「つぶれる寸前」に。平山さんが店を引き継いだ21年前はそんな状況だった。

 「ワールドビジネスサテライト」や「ガイアの夜明け」などテレビの経済番組が好きという平山さん。あるとき、「選択と集中」という言葉に目がとまった。「他の店がやらないことを、そしてインパクトを与えないと目立たない」と考えた。

 特化したのは担々麺。研究を繰り返し、自信を持って出せる一品が完成した。ただ、食べてもらわないことには意味がない。「激辛」だと他の店でも出していて目立たない。世界で一番辛いと言われた唐辛子を使った「殺人的な辛さ」。これを売りにするべく、「殺人担々麺」と名付けた。それが10年前のことだった。

 平山さんのビジネス戦略は当たった。ちょうどSNSが世の中に広まるタイミングで、ネットでも取り上げられるようになり、訪れる客が増えた。最近は若い人たちが、「インスタ映え」を求めて足を運んでくれるという。おかげでここ数年、店の経営は持ち直した。「『殺人』はあくまでとっかかり。ネタとして笑ってもらって、自慢のスープを味わってもらいたい」(山野健太郎)


Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

Japonologie:
Leave a Comment