「今日と明日と、2日間の面会だから。あれも言い忘れた、これも言うときゃよかったということがないようにね」
大阪拘置所の職員からそう促され、女性はここに収容されている弟との面会に臨んだ。
弟は、2日後に死刑が執行されると決まったばかりの死刑囚だ。
弟はこの日も、翌日も姉と思い出話を続けた。職員に「名残はつきないが」と遮られると、姉に「笑って別れましょう」と言い、絞首台に向かっていった。
一連の音声は1955年、当時の拘置所長が「職員教育」の名目で回したオープンリールのテープに残っていたものだ。
かつては執行の1~2日前に、その予定を死刑囚に伝えていた時代があった。
いまは違う。死刑囚は執行の1~2時間前に告知を受け、刑場に連行される。
こうした運用について、2人の死刑囚が国を相手に提訴した。不服申し立ての制度があるのに行使できず、不必要に残酷だ。「適正な手続きによらなければ処罰されない」と定めた憲法31条に反する――と訴えている。
国は執行の告知について定めた法令がなく、そもそも告知をしなくても違法にならないと反論した。当日告知にしたのは、前日に告知した死刑囚が自殺したためで、今の運用は「円滑な執行のための合理的な方法」と主張している。
この訴訟の判決が15日午後2時、言い渡される。
死刑制度の運用をめぐっては、ほかに「絞首刑の残虐性」「再審請求中の執行の是非」を問う2件の訴えが大阪地裁に起こされている。
3訴訟を担う金子武嗣弁護士は「死刑制度は国民も実態をほとんど知らない。訴訟によってブラックボックスに小さくてもいいから風穴を開けたい」と話す。(阿部峻介)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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