寒い朝、新聞配達に出かけた母はがれきの下で見つかった。「新しい神戸をつくる仲間になりたい」。そう誓った高校生は、もうすぐ母と同じ年齢になる。
白石大樹(たいき)さん(45)の母、桂子さんはテレサ・テンや美空ひばりの曲を歌うのが好きだった。朝は5時すぎから新聞配達、昼と夜は真珠を選別する内職。父は物静かで、「カカア天下」の家だった。
1995年1月17日の阪神・淡路大震災。その朝も、玄関の方から「ガチャガチャ」と母が出かける音が聞こえた。「ああ、行きよるな」。寝床でそう思ってしばらくすると、「ゴー」という地響きが聞こえた。寝ていた弟のほうへ仏壇が吹っ飛び、家中のあらゆる物が倒れた。
神戸市灘区の自宅マンションに一緒にいた父と兄弟は無事だった。近くに住む祖母を助け出し、知り合いのおばちゃんの救助に向かった。母の行方がわからなくなっているとは、そのとき思わなかった。
前夜のたわいもない話
昼すぎ、配達ルートの道路沿…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル