◇激動2019 政治社会 (6)
日本人の2人に1人が「がん」に罹患(りかん)する時代。完治も夢ではなくなったが、早期発見・早期治療が必要不可欠で、これを実現するための技術開発が待たれる。そんな中、今年になり新たながん検査技術が相次いで発表された。キーワードは簡単、安価、わずか1滴!
1滴の血液から13種類のがんを早期発見できる――そんな夢のような検査技術を、東芝が11月、東京医科大などとの共同研究で開発したと発表した。血液の採取から2時間以内に99%の高精度で、13種類のがんのいずれかにかかっているかを判定できるという。来年から実証実験を行い、数年以内の実用化を目指す。
血液中の「マイクロRNA」と呼ばれる分子の種類や濃度を測定することで、がんを患っているかを見分ける検査技術。従来のがん検査では「ステージ0」といった初期段階のがんは発見が難しかったが、この技術なら乳がんや膵臓(すいぞう)がん、胃がん、大腸がんなどのがんがステージ0でも検出できるという。
がんの部位は特定できないものの、がんの種類によって検査方法を変える必要がない。東芝研究開発センターの橋本幸二研究主幹は血液1滴での検査にこだわったといい「微量で検査できれば受診者の負担を低減できるのではないかと考えました」と語る。検査費用も2万円以下を想定している。
1滴の尿でがんを早期発見できるという技術も開発された。ベンチャー企業「HIROTSUバイオサイエンス」が10月、来年1月から実用化することを発表した。
嗅覚に優れた体長1ミリほどの「線虫」が健常者の尿からは離れ、がん患者の尿に近づく性質を利用した技術。これまでに15種のがんに反応することが確認されており、早期発見にも効果があるとしている。検査に必要なのは尿1滴程度で、1回の費用は9800円(希望価格)。同社の広報担当者によると「複数の健康保険組合や、医療施設へのサービスも決まっています」という。
がんの検査技術はほかにも、息や唾液のにおい、便中の細菌、犬の嗅覚を利用、人工センサーでの感知…などさまざまな角度から開発が進められている。
日本ではがんにより年間30万人以上が死亡し、30年以上にわたり死因の第1位。罹患率も約5割と「先進国では唯一、日本だけが増加している」(医療関係者)。早期発見すれば生存率は上がるが、厚生労働省の調査では、日本人のがん検診受診率は30~50%止まりで、諸外国に比べ低いという結果となっている。受診しない理由は「いつでも受診できる」「面倒」「時間が取れない」が上位を占める。
米国では日本のような国民皆保険制度がなく、治療が高額になるため、受診率が高くなるという背景もあるが「若いうちからがん教育を行っており、検査や治療に抵抗感が少ないことも一因」(関係者)。そのため、文部科学省は17年度から小・中・高でがん教育をスタートさせた。
目覚ましい発展を見せ、より手軽になっていくがん検査。福田医院(横浜市)の福田伴男院長は「近い将来、健康診断にがん検査を組み込む企業も出てくるでしょう」と語る。治療技術の開発も進めば「がんは怖くない」と言われる日が来るかもしれない。 (特別取材班)
Source : 国内 – Yahoo!ニュース