この不自由との付き合い方 柚木麻子さん、海原純子さん

 コロナに明け暮れた2020年。不安を抱えながら働き続けた人も、出かけるのを辛抱して感染防止に努めた人も、みなさん本当にお疲れさまでした。作家の柚木麻子さん、心療内科医の海原純子さんにコロナ禍を振り返ってもらいながら、今をやり過ごす心の保ち方をうかがいました。

作家・柚木麻子さん 「肩の力抜いて」なんて言えない

 15歳のときにウイルス性の肺炎にかかったことがあり、その後も肺炎を繰り返してきました。新型コロナの感染が拡大してから、肺が丈夫ではない不安が常にありました。

 医師からは「外出はなるべく避けて」と言われ、外に出る必要のある夫とは、食事を取る部屋を別にしたり、話すときには携帯電話を使ったりもしていました。こういった生活も、春までと言われていたのが夏までになり、秋になり……。神経質なのかと悩むこともありますが、いまに至っています。

拡大する ゆずき・あさこ 1981年生まれ。作家。主な著書に「ランチのアッコちゃん」「BUTTER」「マジカルグランマ」など。「ナイルパーチの女子会」で山本周五郎賞を受賞=写真(C)斎藤春香

 感染対策についての考え方は、個々人の差が大きく出てくるようになりました。とても慎重な人もいれば、以前と同じような生活を再開している人もいる。具体的な指示がないからこそ、それぞれが自分の想像力や相手への気遣いをもとに過ごしている状態です。「自己責任」を追及され、分断や格差が広がっていると感じます。

 悩む人、特に母親の立場の人たちに「肩の力を抜いて」「気持ちを強く持って」といった言葉をかける人がいますが、私は、すでにたくさん頑張っている人に、そんなことは言えません。つらい人がいるなら、変わるのはその人ではなく、「力」のある人の側だと思うからです。

 作家としてはこの間、やりたいこと、やるべきことが思うようにできず、執筆が進まなくなりました。筆が止まってしまうなんて、初めてのことでした。取材や情報収集もこれまでと同じやり方では難しくなり、キャンセルした海外取材も。足しげく通っていた史料室が一時閉鎖になったり、私の小説が原作のドラマ撮影現場に行けなかったり……。小説を書くのに取材ができないのはとても困ることです。

 緊急事態宣言に伴い保育園が一時休園になり、子どもを家で見なくてはいけなくなると、執筆に集中が続きませんでした。集中したいときは携帯電話を持たずに喫茶店に行って書いていたのですが、それもできず、仕事が滞る焦りが強かったです。

 ただ、さまざまな制約を受けた半面、プラスになったこともあると思います。たとえば映画の試写会。子どもが生まれてからはあまり参加できませんでしたが、オンライン開催が主流になったことで、たくさんの映画に触れられるようになりました。

今日も作家でいられた

 取材ができず長編小説の執筆が止まったので、気持ちを切り替えて、書評の仕事を今までより多く受けるようになり、たくさんの素晴らしい作品に出会えました。暗い気持ちになることも多い一年だったけれど、こうした変化があったことも忘れずにいたいと思います。

 制約や不安の多い生活を送るな…

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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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