香川に春の訪れを告げる「四国こんぴら歌舞伎大芝居」が5日、香川県琴平町の「旧金毘羅大芝居」(金丸座)で始まった。中止の2020年に襲名披露する予定だった松本幸四郎さんらが舞台上で躍動し、700人以上の観客で埋め尽くされた芝居小屋は、5年ぶりの熱気に沸いた。21日まで。
第1部の「伊賀越道中双六 沼津」は情愛と義理の板挟みの中、親子の出会いと別れの哀歓を描く名作。幸四郎さんが演じる呉服屋十兵衛、中村鴈治郎さんが演じる老いた平作の軽妙な掛け合いが笑いを誘い、最後の別れのシーンでは涙をぬぐう観客もいた。
幸四郎さんの長男・市川染五郎さんは十兵衛の荷物持ちの安兵衛を、鴈治郎さんの長男・中村壱太郎さんは平作の娘・お米を演じ、親子共演となった。
幸四郎さんと染五郎さんのファンで、2人を追いかけて全国を飛び回っているという東京都の堀古そのかさん(27)は「日本最古の芝居小屋で歌舞伎が見られることがとにかく幸せ。東京の歌舞伎座よりもずっと小さく、距離が近くて驚いた」と話した。
全国から「お茶子さん」ボランティア
こんぴら歌舞伎は地元商工会青年部などの手弁当の支えで成り立っている。裏方を担う人材が不足する中、かすりの着物姿の「お茶子さん」を務めるボランティアが全国から集まり、来場者を案内したり掃除したりした。
広島県から駆けつけた鍛冶谷千鶴さん(50)は、23年ぶりにお茶子さんとして参加した。今回は娘の千尋さん(22)も同伴した。「普段の生活とは違う自分になれる異世界のよう。懐かしさがよみがえりました」。
千尋さんも「人がいっぱいいてすごい。みんな優しくてやりやすかった」と笑顔で話した。
部員不足の町商工会青年部に代わり、チケットのもぎりや下足袋の配布などを町観光協会のメンバーが手伝った。漆原康博会長は「自分も青年部として活動してきたので裏方の仕事の大変さはわかっている。こんぴら歌舞伎は観光事業者が一番恩恵を受けているので、これからも協力していきたい」と語った。
片岡英樹町長は5年ぶりの開催について「物価高騰などコロナ前と状況が違う中、リスクや不安要素はあった。それでもお客さんの笑顔を見て、この町はやっぱりこんぴら歌舞伎をやらないと春が来ないなと改めて実感した」と喜んだ。(和田翔太、内海日和)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
Leave a Comment