ささくれだった心に効く名作 映画愛の落語家お薦めは?

 うちで楽しもう――。新型コロナウイルスの感染拡大で、無数のエンターテインメントが中止や延期に追い込まれています。DVDやCD、放送や配信などから、今回は、かつて映画監督を目指していたというほど映画を愛する落語家桂米紫(べいし)さんが、「秀逸な一点」を選びます。

 アクション映画を見てスカッとしたい。恋愛映画を見てときめきたい……現実から逃避するために映画を見る人も多いかもしれませんが、僕が中高生のころから何十回も見てきた「カイロの紫のバラ」は、現実に即したファンタジー映画。ずっと心に残り続けている作品です。

 セシリアという映画好きの女性が主人公。現実は不景気で夫は暴力的、仕事も首になってと不幸続きです。「カイロの紫のバラ」という映画を何度も見ていたら、登場人物のトムがスクリーンの中から声をかけてきて、飛び出してくる。トムを演じた俳優のギルも駆けつけて、不思議な三角関係が始まるんです。

 監督のウディ・アレンは悲観主義者。人生はつらいことの連続だからこそ、楽しく生きようという作品が多い。僕も落語の芸風で「底抜けに明るい」と思われがちですけど、根は悲観主義。うちの一門の先輩である枝雀師匠、ざこば師匠、南光師匠もどこかに影の部分があるから、明るさがより際立つんだと思う。

プロフィール
かつら・べいし 1974年、京都市出身。94年に桂塩鯛(当時は都丸)に入門。2009年度の文化庁芸術祭新人賞を受賞。映画と古典落語を楽しむ公演にも出演している

 この映画は、ラストも好きです。セシリアが幸せになれるのかと思ったらやっぱり不幸なのか、と。でも最後、映画館でスクリーンを見つめながら笑顔になっていく。悲喜こもごもで、まさに人生そのもの。すごく勇気をもらえるんです。僕自身、心がささくれだった時に必ず見てきました。

 コロナで、出るはずだった落語…


Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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