出口を出ると体が小さくなる、アニメ「ドラえもん」のひみつ道具「ガリバートンネル」。その形に似ていることで長年親しまれてきた、神戸・三宮の地下街と地上を結ぶ「A14出入り口」(神戸市中央区)が今秋、約90年の歴史に幕を下ろす。神戸市には「残念です」「なくさないでほしい」などの声が寄せられているという。
「A14」の地上部分はコンクリート製で全長約5・2メートル、高さは最大で約2・6メートル。半楕円(だえん)形の入り口で、トンネルのようなユニークな外観が目を引く。
階段の幅は約1・2メートルと狭く、人がすれ違うのがやっと。計26段を下りると、JR三ノ宮駅や地下の飲食店街「味ののれん街」につながる。午前7時から午後11時まで通ることができる。
市によると、A14に関する記録はほとんど残されていないが、昔の写真などから、近くに三宮阪神ビルが完成した1933年にはあったとみられるという。
市都心三宮再整備課の担当者は「おそらく約90年前から形は変わらず、市中心部では最も古い構造物の一つではないか」。
となれば、阪神大水害(38年)や神戸空襲(45年)、阪神・淡路大震災(95年)を乗り越えたことになる。
A14を管理している市道路管理課の担当者は「昔の構造物なので分からないことばかり」としたうえで、「神戸空襲のとき、ここから地下道へ逃げ込んだ人もいたのではないか」と推測する。
図面にひっそりと…
そんなA14に大きな動きがあったのは、今年5月下旬だった。
市やJR西日本などは、2029年度の開業を目指す「JR三ノ宮新駅ビル(仮称)」や周辺の工事の概要をホームページに公表。計画図面で、A14の部分に「閉鎖」の文字が記されていたのだ。
これに気づいた人たちがSNSに「『ガリバートンネル』が閉鎖?」などと投稿し、市には「どうなるのですか」などの問い合わせが電話で相次いだ。
市によると、計画では11月ごろにA14は閉鎖され、「ガリバートンネル」も時期は未定だが撤去される。今ある場所の頭上には高さ10~12メートルほどの歩行者デッキが建設される予定で、その橋脚を付近に立てる必要があるためだという。
神戸市内の近現代史に詳しい、県立歴史博物館(姫路市)の学芸員の吉原大志さん(38)は「1930年代以降に各鉄道が乗り入れるなど、三宮周辺部の都市開発が進んできた。ちょうど現在の三宮周辺地域の在り方の原点とも言える時期に当たり、その一端を今に伝える構造物がなくなるのは残念です」と話している。(森直由)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル