博物館や美術館の「手を触れないで下さい」という注意書き。あるいは「見学」という言葉が示すように、多くの文化施設では「展示=眺めるもの」という視覚優位の在り方が長らく当たり前とされてきた。そこでは、目の見えない人は鑑賞の機会を奪われてしまう。だがそもそも、視覚に頼った鑑賞方法にはさまざまな限界があるはずだ。触れてみたいという好奇心、さわって初めて気付くこと、それが鑑賞体験をさらに深いものにしてくれる――。
国立民族学博物館(大阪府吹田市)で開催中の「ユニバーサル・ミュージアム さわる!“触(しょく)”の大博覧会」は、展示品にさわる体験を通して「触」の豊かさを伝える特別展。コロナ禍による1年の延期を経て、こう呼びかける。「非接触が推奨される今だからこそ、さわることの価値を考えよう」。照明を落とした薄暗い空間に、名画や仏像のレプリカ、五感に働きかける現代アート作品など約280点が並ぶ。
入り口近くの最も暗いスペースには、アートユニット「わたる」が手がけた盲目の琵琶法師、耳なし芳一の彫像が立つ。木彫りの像の頭部から腕へと指を滑らせていくと、やがてドキッとするような違和感が――。聞けば、右手部分にだけ人肌の感触を再現したシリコーン素材が使われているという。暗くて見えないからこそ、そのリアルな触り心地が際立ち、現実と作り物の境界があいまいになる。周囲には、芳一の体に書き込まれていた経文がはがれ落ちて散らばっており、文字=視覚文化から自由になった身で展示空間を歩く、鑑賞者たちの姿を暗示しているようにも思われた。
展覧会の「さわりどころ」の…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル