1階は吹き抜けの大きなホールに幼児が遊べるすべり台などのコーナー。2階にはクライミングができる高さ7メートルの壁。遊びの要素を取り入れて来館者を伸ばしているユニークな博物館が福岡県大野城市にある。
「市民ミュージアム 大野城心のふるさと館」。郷土の歴史や民俗文化の資料を保存・展示する博物館でありながら、市民の交流やにぎわいの場もあわせもつコンセプトで、市が約23億円を投じて2018年7月に開館した。
すべり台は、よく見ると市名の由来である古代の山城「大野城」を模した独特の形。クライミングウォールは、大野城跡にある「百間(ひゃっけん)石垣」の高さを体験してもらう狙い。休日は子どもたちの予約でいっぱいだ。
国宝や有名な出土品などの特別展もあれば、市内の団体と一緒に手作り工芸のワークショップなども開く。人口約10万人の市にあって、開館1年で来館者が10万人を突破。新型コロナウイルス禍で臨時閉館も余儀なくされたが、開館4年の22年9月には30万人を達成した。この規模の歴史系の館では際だった数字だ。
遊びやイベントだけの来館者も少なくないが、赤司善彦館長(66)は意に介さない。「とにかく1回来てもらうこと。リピーターも大切だが、新規開拓しないと博物館は先細りになるだけ。ふつうの人がおもしろいと思うことをやって、すそ野を広げないと」
歴史系の公立館は全国的に来場者が伸び悩み、大きな曲がり角に来ているという。市役所の一室にあったふるさと館の前身「歴史資料展示室」も、来場者は年千人台に落ち込んでいた。
全国どこでも同じように、旧石器、縄文、弥生と時代順に資料を並べる展示。赤司さんは「見ておもしろいと思うのかな」と疑問だったという。元県職員で、大宰府史跡などを調査してきた考古学の専門家。既存の枠にとらわれない発想の柔軟さは、05年に開館した九州国立博物館(福岡県太宰府市)の立ち上げと展示課長を経験して身につけた。収蔵品ゼロからのスタート。人を呼び込む企画、外部との交流や連携など、垣根を低くし、できることは何でもやってきた。
ふるさと館に来てから気づいたこともある。地域が誇る歴史とは、古代の史跡や文化財だけではない。最近、戦前・戦後の身近な歴史にも目を向けている。
4月25日から始めた開館5…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル