アナザーノート 池尻和生・ネットワーク報道本部次長
雨でぬかるんだ未舗装の道を、上下に揺れながら行き交うトラック。建設用のクレーンが点々と並ぶ広大な敷地のほとんどは、地平線まで見通せるほどの更地でした。
JR大阪駅付近からバスで約40分、訪れたのは2025年4月開幕の大阪・関西万博の会場となる大阪市の人工島・夢洲(ゆめしま)。8月下旬、日本国際博覧会協会(万博協会)の現地見学会の同行取材で初めてこの地に立ちました。
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「あれが『リング』です」。協会の関係者が指さしたのは、万博のシンボルとして来場者の「空中歩廊」となる大屋根(リング)の骨格の一部でした。
円周約2キロの大屋根が囲むのは、海外パビリオンや、映画監督ら著名人が手がける八つのテーマ館。いまはほとんど何も建っていませんが、開幕した時には、このエリアに大勢の人のにぎわいができる。万博協会はそんな青写真を描いています。
万博の準備、「まさに胸突き八丁」
ところが――。万博はいま、開幕へ「黄信号」が灯(とも)っています。肝心の海外パビリオンの建設が大幅に遅れ、開幕に間に合わないのではないか、と指摘されているのです。
万博には153カ国・地域が参加を表明。参加国・地域が自前で建てる56のパビリオンが予定されていました。1970年の大阪万博でもアメリカ館などが注目を集めたように、各国が威信をかけて創意工夫を凝らす目玉施設です。
建設には大阪市に「仮設建築物許可」の申請が必要ですが、9月前半までゼロ。パビリオンの構造によっては完成までに1年半程度かかるとされます。
岸田文雄首相は8月、危機感をこうあらわにしました。「万博の準備はまさに胸突き八丁の状況にある」
背景には、建設業界の深刻な人手不足や資材費の高騰などもあり、現在約1850億円を見込む建設費の増額も検討されています。しかし、「黄信号」の要因は、そうした「外的」なものだけなのでしょうか。
日本建設業連合会の宮本洋一会長は7月の会見で、万博協会側に昨年9月の時点で「間に合わなくなりますよ」と懸念を伝えたと明らかにしています。万博の運営は、政府、大阪府市、経済界などが複雑に絡み合い、責任の所在がわかりにくくなると指摘されています。
また、大阪で自民党と対立する一方、安倍政権とは蜜月だった日本維新の会が万博誘致を主導した政治的な経緯も影を落とします。関係者からは「岸田首相が万博に関心がないからこうなった」とか、「大阪の吉村(洋文)知事がちゃんと動いていないんじゃないか」など、責任を押しつけ合うような声も聞こえます。こうした「内的」な問題も一因になったのではないか。そう思うのです。
中でも気がかりなのは、そもそも「なぜ万博を開くのか」がはっきり伝わってこない点です。だから万博の機運もなかなか高まらないのではないでしょうか。
実は「危機」だった、あの万博
実は国内での大規模万博で今…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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