たった一度だけの、母との花見。王子動物園(神戸市灘区)の桜を見ると、その日の記憶がよみがえる。
「明日、花見行くで」
63年前の4月、小学6年生だった田村稔さん(75)に、母のキヨさんは突然告げた。
晴天の日曜日。2学年下の妹と母の3人で10分ほど歩き、動物園に行った。満開の桜の下には、大勢の家族連れがいた。敷いたござがあおられるほどの、冷たい風が吹く。母の甘い卵焼きが入った弁当には、花びらではなく砂が入った。
「早めに帰ろ。花見どころやないわ」
髪を押さえて、母が言う。結局、1時間ほどで花見は終わった。
花見の前年、田村さんの父は…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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