たった30分、運命のいたずら 残された写真に託す言葉

 東京・汐留のギャラリーで、初老の男性がチベットの写真の前で足をとめた。雪を帯びて輝く山々を背に、墓石のような石が積み上げられている。

 「不思議な石ですよね」。会場を案内していた上田敦子さん(63)がそう語りかけると、男性は「マグマが固まった自然のままの石なんです」と教えてくれた。この春のことだ。

 男性は下町で工務店を長年経営しているという。別れ際、意を決したようにシャツの胸ポケットから銀色の棒を取り出した。コンクリート構造物の安全性を確かめる検査の道具だという。「こうやるんです。五感を用いて」。床をコンコンとたたいてみせた。

 「これをやらなくなったら大変なことになる」。深々とおじぎをして去っていった男性は、会場の出入り口に置いた感想ノートにこう書き残した。

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 別の日。上田さんは、30歳前後の女性が30分以上、細長い会場を行ったり来たりしているのに気づいた。

 「気になる写真があるのかしら。もしかして息子の友だち?」。そんなことを思いながら、「よかったらノートに何か書いてください」と声をかけた。

 女性は小さく「はい」と言ったが、何かを考えている様子で目を合わせない。上田さんはそっとその場を離れたが、後になってノートに女性のものとみられるメッセージを見つけた。

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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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