希少種の宝庫として新たに世界自然遺産に加わった鹿児島県・奄美大島で、野生動物の保護に奔走する獣医師がいる。伊藤圭子さん(43)。誰も経験したことがない希少種の治療に悪戦苦闘しつつ、被害防止の啓発活動にも取り組んでいる。
アマミノクロウサギにルリカケス、ハヤブサ。治療中の動物に自宅が「占拠」されることがある。島に専門の収容施設がない上、種ごとに別スペースに分ける必要があるためだ。「風呂場を(渡り鳥の)サシバにとられた時は、温浴施設に通った」と笑う。
愛知県出身。知人に誘われた野鳥観察で動物好きに拍車がかかった。高校では母校の裏山が開発されると知り、ムササビなどの生息状況を調べて反対したこともある。
獣医師を目指し進学した大学時代にマングース研究で奄美に通い始め、魅了された。本土と比べ、島の動物は逃げ足が遅く、何だかどんくさい。「外敵はハブぐらいで、警戒する必要がない世界ってすごい。支えになりたい」。勤務医として経験を積んだ後、2013年に島に移住。19年に動物病院を開院し、活動を続ける。
治療するのは、車にひかれたり、窓にぶつかったりといった「人との関わり」でけがをした野生動物だ。
普段はペットを診察し、連絡があると事故現場などに向かう。年40~50件を扱うが、自然に戻せるのは3割以下。クロウサギなどの希少種の治療経験がある獣医師は皆無で、相談できる人も少ない。「うまくいかないことばかりで、目の前でどんどん死んでいった」。手探りで経験を積み、以前よりもできる対応が増えたが、「治療より予防が大事」と強調する。
遺産登録に向けて関心が高ま…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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