テレビをつければネコがあちこちのCMに登場し、書店をのぞけばネコを取り上げた雑誌や本が並ぶ。2月22日の「猫の日」も大盛り上がりで、今や「ネコの時代」が到来したかのように見える。ネコと人間はどう関係を築いてきたのか、「猫はこうして地球を征服した」(インターシフト社)の著書がある米ジャーナリスト、アビゲイル・タッカーさんに話を聞いた。
Abigail Tucker 1980年生まれ。米スミソニアン誌特約記者。近著「Mom Genes(母性の遺伝子)」の日本語版が2023年春にインターシフト社から刊行予定。
――人間とネコは古来共存していたのでしょうか。
「人類とネコ科の動物の関係は、肉をめぐる壮大な戦いだったと言えます。肉は生存に必要な非常に大事なたんぱく質源で、確保するのに多大な労力が必要でした。人類が最初に食べた肉は大型のネコ科の動物の食べ残しだった、と言う研究者もいます。食べ残しの肉を見つけると、少し盗み食いしては一目散に逃げたのです。そうしないと今度は食べられてしまいますから。実際、ヒトはネコ科の動物にいつも狙われていました」
かつて「ライバル」だった人類とネコ科動物
「ヒトの脳が大きくなったのは、肉を得るためだったという説もあります。脳が大きくなり、武器を作ることができるようになると、ヒトとネコ科の動物の間にある種の力の均衡が生まれました。ライバルと言っていいでしょう。我々にはやりがあり、彼らには牙と爪があった。それを生かして両者が食物連鎖の頂点に立ち、一定の距離を保つようになったのです」
――それがなぜヒトは小型のネコと暮らすように?
「転機は新石器革命です。人類は1万年ほど前に農耕や牧畜をするようになりました。定住して集落をつくり、食べるために動物を飼うようになったのです。これに伴って人口は大きく増えました。一方で、ライオンやトラなど集落に近づく大型の捕食動物を排除するようになりました。家畜が襲われるのを防ぐためです」
「これが別の効果も生みました。集団で暮らすとさまざまなゴミが出ます。大型の動物がいなくなったことも相まって、ゴミを狙って中型の捕食動物が集まってくるようになりました。キツネやテンといった動物です。その中にネコもいたのです。こうした定住地のゴミの研究では、イエネコにつながるリビアヤマネコの骨が見つかっています」
「ネコというとよくイヌと比較されます。『自分はネコ派だ』『イヌ派だ』とかよく言いますよね。しかし、ネコの生態は、人間が意図的にそうしているわけではないのに、人間の生活からこぼれ落ちてくる資源を当てにして人間の近くに住むハトやネズミにむしろ近いのです。『片利共生』と言います。彼らは我々の生活の範囲にいますが、支配されているわけではありません」
――そうした動物の中でなぜネコだけ家の中にまで入ってくるようになったのでしょうか。ネズミを捕るからですか。
「ネコがネズミを駆逐するというのは幻想です。ネコは小動物に反応する習性があるので、ネズミをやっつけることもあるでしょう。知り合いに、メリーランド州ボルティモア市の公衆衛生の専門家がいます。この専門家が市内の裏通りでネコが何をしているのか観察をしました。そこで分かったのは、ネコとネズミが共存しているということでした。餌をあさるためにゴミ箱の近くにネコとネズミが一緒にいて、ネコはネズミを捕らえようともしませんでした。ネズミの中には大きなものもいて、ネコにしてみれば戦うと危険もあるのです。これは現代の話ですが、新石器革命のころも変わらなかったでしょう」
インタビュー後半では、人間はなぜ「ネズミも捕らない」ネコを家の中へ招き入れたのか、ネコが世界中へ広がっていった歴史、そしてなぜ現在、ネコブームが起きているのか、についてタッカーさんがひもといていきます。
――ではなぜ?
人間の「弱み」につけ込んだネコたち
「確かに、集落に近寄って来…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル