なぜ処理水放出で賛否言わず? 権限わきまえる福島県知事の「源流」

 最大震度6強の福島県沖地震の発生から5日後の3月21日昼ごろ、被害の大きい二本松市岳温泉を視察していた自民党福島県連会長の根本匠(71)の携帯電話が鳴った。声の主は福島県知事の内堀雅雄(58)だった。

 「財務省を口説いて下さい」

 狙いは、被災した中小企業を支援する「グループ補助金」の特例での適用を国に認めさせることだった。

 同補助金は本来、激甚災害法で被害が広い範囲におよぶ「本激」の指定を受けることが必要だ。しかし今年の福島県沖地震では、指定される見込みは薄かった。そこで内堀は、自民党で中小企業・小規模事業者政策調査会長を務める根本を頼り、政治の力でその壁を突破しようとした。

 特例での適用には、国の財布を預かる財務省の理解が不可欠だ。「最強官庁」と呼ばれる財務省は他省庁の予算査定には厳しいが、政権与党の政治家にはめっぽう弱い。官僚出身で大蔵省(現財務省)への出向経験もある内堀はそれを見抜いていた。

 電話から数時間後、内堀は県庁を訪れた根本とともに、報道陣の前で写真におさまった。内堀が事業者支援のための要望書を手渡すと、根本は「最大限の対応をしたい」と応じた。この際、内堀が使った「事業者の心が折れないように」という言葉は、その後、関係閣僚の間で福島支援の枕詞(まくらことば)のようになる。

 「3・11や(2019年10月の)台風19号、コロナ、昨年と今年の県沖地震で何重もの被害を受けている」

 根本は関係の深い岸田文雄首相らに福島の被害状況を訴え、補助金を所管する経済産業省には党として要望した。政府は地震1週間後には適用方針を固め、4月8日にまとめた支援策に「特例として措置する」と盛り込んだ。わずか18日間のスピード決着に、当時の県幹部は「(21年2月の福島県沖地震で特例の)適用実績があったとはいえ、驚くほど速かった」と舌を巻いた。根本は「知事との連係プレーだ」と胸を張る。

     ◆

 福島県知事選は13日に告示され、30日に投開票を迎えます。震災と原発事故から11年半が過ぎた今、有権者は県政のトップに何を託すのでしょうか。現職の内堀雅雄知事の2期8年を振り返り、その「源流」に迫ることで、知事の役割を考えます。

■知事の仕事は「予算こそすべ…

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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