どうして福島に原発が造られなくてはならなかったのか? 原爆を投下された広島との意外なつながりを交え、その歴史的背景を被災者の視点から追ったアニメ「ふくしま原発はじまり物語『峠』」(57分)を、紙芝居作家いくまさ鉄平として活動する福本英伸さん(65)=広島市=が作った。繰り返された放射能の惨禍が訴えるものはなにか。作品は問うている。
物語の主人公は、東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発事故で故郷を追われ避難生活を送る60代の男性だ。1949年に、後に原発ができる大熊町で生まれた。日本が戦後の貧しさを脱し豊かになっていく高度経済成長期に東京の大学に入学し、学生生活を謳歌(おうか)する。
しかし物語は、日本が豊かさを享受する中、原子力をめぐって起きていく大きな変化を浮かび上がらせる。
原子力の平和利用を訴えたアイゼンハワー米大統領の国連演説(53年)と、その後広島など各地で開かれた原子力平和利用博覧会、米国の水爆実験による第五福竜丸の被曝(ひばく)事件(54年)、福島県の原発立地調査(60年)などが、男性の半生に重ねて描かれる。
広島の原爆病院の場面では、ベッドで横たわる母親に少女が原子力平和利用博覧会に、「元気になって連れて行って」と頼み、福島では職を求めて若者が故郷を離れ、原発誘致をめぐって様々な思いが交錯する。大学生となった男性が帰省すると、原発の巨大な建物はすでにそびえ立ち、言葉を失う。そして、映像は時を超え2011年に――。
物語の最後、避難生活のなかで男性は語る。「核の平和利用の名のもと、広島の原爆被害さえも取り込み、世界の大きなうねりの中で原発は広まっていったんだべ。おれたち一介の庶民にはどうしようもなかったんだなあ」
「広島に原発」の話 アニメ制作のきっかけ
福島の人々からの聞き取りや公表資料などから脚本・作画を手がけたという福本さん。制作のきっかけは、「広島に原発を造ろうという話があったらしい」という、被災者から聞いた信じられないような話だった。
福本さんは地元・広島市で地…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル