漫画「はだしのゲン」が4日、連載開始から50年を迎えた。国内外で読み継がれてきたが、広島市教育委員会の平和教材からの削除が報じられると、文庫版の「ゲン」の売り上げが10倍になるなど、改めて作品への関心が高まっている。
「ゲン」は広島で被爆した主人公の少年中岡元が、原爆孤児の仲間らとたくましく生き抜く物語。「週刊少年ジャンプ」(集英社)の1973年6月4日号から連載が始まった。汐文(ちょうぶん)社が75年から単行本を順次出版するとロングセラーとなった。
今年2月、広島市教委が市立小中高校向けの平和教材を改訂し、「ゲン」の場面引用を含めた複数の箇所を「被爆の実相に迫りにくい」などとして別の教材に差し替える方針が報じられた(その後、実際に差し替え)。反対の意見も根強い一方、2~3月は中公文庫版の1巻の全国書店での販売数が通常の月の約10倍になり、重版も決まった。
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妻ミサヨさん「つらかったと思う」
作品への関心が高まる中、作者の故中沢啓治さんの妻ミサヨさん(80)に、「ゲン」を制作中の中沢さんの様子や思いを聞いた。
「ゲン」を執筆中、カリカリと音を立てていたペンが、ふっと止まったことがあります。ゲンの弟と姉、父親が原爆で家の下敷きになり、焼け死ぬ場面です。
「ゲン」は夫の実体験を基にした作品で、自分の弟と姉、父親が家の下敷きになって焼け死んでいます。「描きたくない。でも、原爆の被害を残したい」という思いがあるから、身内の死も描かなくちゃいけない。それがつらかったんだと思います。
作品のテーマは「生きること」。どんなに苦しくても、もう一度……という。作品中に「麦は踏まれても踏まれても強くなる」っていう話が出てくるでしょう。父親から繰り返し聞いて育ったそうです。
「人類にとって最高の宝は平和」。夫がよく言っていたこの言葉を、墓石に刻みました。命は一生に一度しかないのに、戦争で殺されたらたまったもんじゃない。とにかく平和であってほしい。それが夫の願いなんです。
「子どものころ、被爆直後の場面が怖くて読み通せなかった」という感想をよくいただくんです。それでもいいと思っています。大人になって、もう一度手にとってみて、原爆がなぜ落とされたのか、どんなことがあったのか、考えるきっかけにしてほしいです。(興野優平)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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