今年のNHK大河ドラマ「光る君へ」に合わせ、源氏物語の世界をひな人形で表現した企画展が、山口県光市室積5丁目の光ふるさと郷土館で開催中だ。物語の印象的な場面を所蔵のひな人形などを使って再現。構想から制作まで2年をかけ、職員全員で完成させた力作だ。3月10日まで。
源氏物語は、「光る君へ」の主人公になる紫式部(生没年不詳)によって、平安時代中期に書かれた全54巻の長編小説。天皇の皇子として生まれた光源氏を主人公に、多くの女性との恋愛や貴族社会での浮き沈みを描いた。
展示では第1巻「桐壺(きりつぼ)」~第9巻「葵(あおい)」の中から八つの場面などを取り上げ、計73体のひな人形で表現。社(やしろ)や小道具などは5人の職員全員で手分けして作った。各巻の内容もコンパクトにまとめて紹介。五つの香りをかぎ分け、組み合わせを当てる「源氏香」という香道の遊びの体験コーナーも設けた。
「下調べに1年、作るのに1年かかりました」と、職員の野村崇子(たかこ)さん(44)が振り返る。企画展に向け、古典の好きな野村さんが源氏物語を読み込み、各巻を象徴する場面を選定。物語成立後に絵画化された絵巻物などを参考に構図を決めていった。
例えば、第1巻「桐壺」では、光源氏の父、桐壺帝の寵愛(ちょうあい)を一身に集める桐壺更衣(きりつぼのこうい)が周りの女性の嫉妬やいじめを受けながら帝の部屋に向かう様子を再現。第9巻「葵」は、源氏の愛人・六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)が生き霊となって、懐妊した正妻・葵の上を呪うシーンを描いた。傍らには配置した人形や小道具などの解説、注目ポイントを記した英訳付きのキャプションも添え、訪れる人に分かりやすい工夫もした。
苦労したのは、人形の頭部の作り直し。ひな飾りは平安時代の婚礼を模しているため装束の大半はそのまま使ったが、五人囃子(ばやし)や三人官女などの顔はどれもぽっちゃりしていて源氏物語の多彩な登場人物の特徴を表せない。雅楽を演じる光源氏や頭中将(とうのちゅうじょう)、年老いた尼君、不美人の末摘花(すえつむはな)などは人形の胴体だけを使い、頭部は粘土で新たに作って付け替えた。
100円ショップで購入した、すしを巻く巻きすを加工して作った御簾(みす)をはじめ、几帳(きちょう)や屛風(びょうぶ)、つのだらい、偏つぎなど小道具にも凝り、みやびやかな宮廷の雰囲気を演出した。
「現代とは異なる文化や価値観に戸惑うかもしれませんが、今も昔も変わらず人々が抱える葛藤や世の無常がこの物語の大きなテーマ」と野村さんは話す。
使われたひな人形は市民から寄贈されたものばかり。「一度は役目を終えたおひなさまたちが演じる源氏物語を通して、日本が誇る文学作品に興味を持ってもらえたら」と来場を呼びかけている。
月曜(祝日の場合は翌日)と第1火曜は休館。入館料は一般260円、高校生以下無料。問い合わせは同館(0833・78・2323)へ。(三沢敦)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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